新刊書紹介

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新しい商標と商標権侵害−色彩,音からキャッチフレーズまで−

編著 青木 博通 著
出版元 青林書院 A5判 640p
発行年月日・価格 2015年4月21日発行 7,200円(税別)
 2015年4月から色彩や音といった新しいタイプの商標の出願受け付けが開始された。すでに多くの企業が新しいタイプの商標を出願しており,他社の出願動向にドキドキしている会員企業も多い事だろう。そんな会員企業の商標実務 家には,本書の帯に書かれたメッセージにピンとくるかもしれない。帯にはこう書かれている。 「いかに商標権侵害を回避するか」

 まず始めにご紹介しておくが,本書は「新しい商標と商標権侵害」と題しているが2014年法改正の解説書ではない。本書は,商標権侵害の判断に関する実務的に 重要なポイントを幅広く網羅した実務解説書である。

 第1章では,商標の類似とは何かという商標権侵害の基礎を復習するために文字や図形といった伝統的商標の商標権侵害に ついて論じられている。教科書的な内容や学説は少なく,豊富な事例紹介がメインになっている点は実務家にとってありがたい。第2章では,立体商標やキャッチフレーズ, キャラクターといった改正前から保護されていた新しいタイプの商標権侵害について触れられている。

 そして第3章において,色彩,音,動き等の2014年改正により導入された 新しいタイプの商標について,審査基準や諸外国での登録例などが引用されて詳細に解説されている。新しいタイプの商標に関する出願の手引きや審査基準はすでに公開されて いるが,侵害判断については不透明な部分が多い。この点,本書は不正競争防止法における類似の事件を多数引用しており,これからの商標権侵害の判断において貴重な指針を 示してくれている。

 本書では,冒頭で商標権侵害の基礎がみっち りと解説されているおかげで,商標権侵害を考えるうえで必ず立ち返って考えるべき「商標の保護法益は何か」 を再確認できる。

 例えば,第1章の「事実表記と商標の使用」では,いわゆる商標的使用について幾つかの類型に分けて論じられており,商標権侵害かどうかという実務上よ く問題になる点がコンパクトにまとまっていて大変参考になった。新しいタ イプの商標の導入に伴って,商標法26条1項6 号にいわゆる商標的使用が抗弁自由として明文化された ため,今後ますます実務的に重要な点と思われる。ぜひ参考にしていただきたい。

 また,第4章の「新しい商標の国際的保護」では,商標制度の国際比較やマドプロ実務の 基礎などいまさら人には聞きにくい〇〇な点が網 羅されているのも嬉しい。

 また,本書は重要判例の判決文を多分に引用 しており,重要判例をおさらいするうえでも 重宝するだろう。類否判断に関するリーディングケースである「氷山印」事件,結合商標の類否判断に関する「つつみのおひなっこや」事件など,重要事件は漏れなく網羅されて いる。

ベテラン実務家にはもちろん,ビギナー実務家にも是非お勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.)

新刊書紹介

知財スペシャリストが伝授する交渉術 喧嘩の作法

編著 久慈 直登 著
出版元 ウェッジ 四六判 252p
発行年月日・価格 2015年6月20日発行 1,400円(税別)
 本書は,月刊誌「Wedge」に2012年10月号から2014年6月号まで連載していた「喧嘩の作法」にさらに肉付けしまとめたものである。

 「Wedge」に掲載された記事はインターネッ トを通じて20編の話を読むことができるが,一冊の本にまとめるときにかなり加筆され,本書では8章50編の話を読むことができる。さらに各章には1つずつコラムが掲載されている。簡単に各章をご紹介する。

 第一章「知財活動スタート」:自身の経験談,活用,人材など様々な内容が盛り込まれており,序章的位置づけになっている。

 第二章「出願戦略」:業種によって異なる知財に対する考え方,日本企業のこと,IT企業 のこと,新興国企業のことがどのような考えで出願戦略を立てているのかがまとめられている。

 第三章「権利行使」:世界各国での知財交渉の経験談がまとめられている。特許権をもたな いアフリカでの事例はとても面白い。特許がなくともビジネスを守るためにどう取り組むか,は見習うべきである。グローバルでビジネスを有利に導くための考え方がたくさん盛り込まれている。

 第四章「パテントトロールと異分野からの参入」:リーマンショック以降,知財の世界に金融の専門家が参入してきて,知財の活用態様が大きく様変わりしてきた。ここでは,彼らがどんなことを考えているか理解でき,実際に彼らと交渉するときに非常に参考になる。

 第五章「ノウハウの防衛」:近年日本企業の情報漏洩がニュースになることが多い。JIPAが主催するセミナーも盛況で各社大変興味がある分野であろう。

 第六章「ブランドマネジメント」:小生も最近商標も担当することになり,ブランドを強く意識するようになり,業務の参考にさせてもら っている。

 第七章「国家間知財競争」:話題は各国の知財政策に及ぶ。グローバルな展開をしている企業にとって,各国の情勢は重要であり,その対処の仕方も学ばなければならない。

 第八章「未来へ」:最終章である。将来に向けてのメッセージが述べられている。

 企業における知財担当者に求められるスキルは非常にレベルが高いものがある。特に近年彼 らは出願・権利化だけの業務から脱却し,様々な取り組みをしなければならない状況にあり,どのように考えて,動いたらいいか,悩んでい る方々も多いと思われる。本書はそのような悩める知財担当者の道しるべになる一冊かと感じた。

(紹介者 会誌広報委員会 委員長)

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