新刊書紹介

新刊書紹介

出願人のためのブラジル特許制度

編著 青和特許法律事務所 ブラジル特許制度研究会 編
出版元 発明推進協会 A5判 312p
発行年月日・価格 2016年5月27日発行 3,000円(税別)
 ブラジルの経済成長および今後の経済成長を 見越してブラジルでの事業の重要性が高まっており,ブラジルの特許出願件数も欧米企業を中心に年間二万二千件程度であり,長期的に増加傾向を示している。日本からブラジルへの特許出願は,2014年には二千件強であり,米国,中国や欧州と比べれば件数は,はるかに少ないが,それでも日本のブラジル出願はインドに次いで多い。しかしながら,ブラジルは日本から地理的に離れており,かつ,公用語がポルトガル語であるためブラジルの特許制度についての情報 が少なく,日本の企業や特許事務所がブラジルの特許制度について情報を得ることは困難である。そこで,ブラジルの特許制度を一冊の本にまとめたのが本書である。

 本書の構成は,ブラジルの産業財産法とブラ ジル特許制度の概要の紹介から始まり,特許出願,出願公開,審査,補正と分割,特許権,ラ イセンス,特許無効の手続き,最後に特許権の侵害の順になっている。ここで本書は,タイト ル通りに「出願人」の立場に立ってまとめられており,「出願人」が一番情報として欲しい,手続きの詳細や規則などを詳細に解説してくれている。また,出願から審査を経て権利化され権利が消滅するまでの手続きや,グレースピリ オド,新規性やみなし技術水準(日本でいう拡大先願)に関する判断について,フローチャー トや図解で解説しており,実務家にとってはすぐに理解しやすいようにまとめられている。

 さらに,コンピューター関連発明,生物関連発明,医薬発明や治療方法又は診断方法の特許適確性や,これらの発明が特許要件を満たすのに必要な特許請求の範囲や明細書の記載や,PCT出願の国内移行手続きについても丁寧な解 説がされており,これらの情報が得られるのは出願を担当している者にとってはありがたい。

 本書によると著者は,ブラジル産業財産庁の審査官から特許規則,審査ガイドライン等の情報の提供を受けた上で,さらに,条文を解釈する上で不明な点及び実務上重要な事項であるが明文化されていない事項について審査官や現地の代理人に対して質問状を出し,それに対して回答を得ているとのこと。得られた回答が盛り込まれているのであろうか,と疑問に思ったが,読み進めていっても,「もっとこんな情報があればよいのに」というような印象はなく,ブラ ジルの特許制度や規則などをほぼ理解することができた。

 ブラジルの特許制度や手続きについて網羅的にまとめられているので,出願や権利化を行う特許事務所のみならず,企業や大学などの知財部門に所属している担当者にも役に立つ一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H. N)

新刊紹介

企業経営に資する知的財産 −技術力,知財力,人間力で創造する−

編著 石田 正泰,石井 康之 著
出版元 経済産業調査会 A5判 350p
発行年月日・価格 2016年6月21日発行 3,500円(税別)
 本書は,青山学院大学法学部特別招聘教授 石田正泰氏と東京理科大学イノベーション研究 科知的財産戦略専攻教授 石井康之氏が,2014 年1月からリーチレターに連載してきた「技術力,特許力」の小論を単行本化したものである。

 企業にとって知的財産が重要な経営資源であることは今更言うまでもないが,いわゆる「企業経営に資する知的財産」について,本書では「技術力」,「知財力」,「人間力」をポイントに,単に保有する知的財産のリストを管理するので はなく,知的財産経営に関する論点(知的財産の位置付け,知的財産ポリシー等)を把握し,ビジネスモデルに沿った知的財産の取得・活用戦略を整理し,知的財産経営を組み立てるという観点で解説している。

 本書の構成としては,大きく「事例・実証編」と「理論体系編」からなり,前者の「事例・実証編」では,まず「第1章 科学・技術,特許と人間力」として過去の歴史を紐解いて,先人のなした種々の技術的成果について,どのよう な背景・環境の下でどのように開発されたのか,それがいかにして事業化に至ったかを,関わった人物や組織の特性も交え紹介している。特に,経営者の人となりが出やすい中小・中堅規模の企業の事例として,例えば豆腐「さとの雪」の 四国化工機蠅砲董ぢ昭劼ら提起された特許侵害訴訟に敗訴した苦い経験をバネに,人材育成を含む知財マネジメントを活発化し,最終的にかつて苦しめられた相手に自社の技術を使わせるまでの競争優位性を獲得した経緯など,経営者の人間力を感じさせる話が紹介されており興 味深く読むことができる。また,「第2章 技術力,特許力の把握」では,会計上で把握困難な「将来の収益を見込んだ特許価値」について,定性的・定量的に評価する独自手法を具体例を用い解説し,続く第3章と第4章では,これをM&Aやライセンス,投資や国際貿易における経済学的理論等にも言及しつつ検証している。なお著者らは,数々の仮定を前提とした絶対性のない評価でも,当事者の合意形成に役立つ情報を提示することが評価論の本質であるとして,利害関係者のコンセンサスが形成されれば意義のある評価額となり得ると説いており,こうした考え方は知的財産の価値評価において,どのよう な仮定に基づいてどのような手法で評価するかを検討する上で参考になるものと思われる。

 そして後半の「理論体系編」では「第5章 知 的財産の位置付け」,「第6章 知的財産の機能」 にて,ノウハウを含む知的財産をどのように保護・管理あるいは開示・共有するか,それが事業上どのような効果をもたらすかを体系的に整理し,続く「第7章 知的財産契約」では,主 にライセンス契約を検討する上で経営戦略の観点から配慮すべき事項をまとめ,最後に「第8章 企業経営に資する知的財産」として,知的財産部門の役割と知財人材のあり方を論じている。

 「企業経営に資する知的財産」という言葉を耳にするようになって久しいが,知的財産をどのように評価し,何をもって「経営に資する」 と判断するのかは知財関係者にとって大きな悩みどころである。その課題に対する答えを模索する上で本書は貴重な示唆を与えるものであり,ぜひ参考にしていただきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H.A.)  

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