新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産・知的財産権・知的財産戦略

編著 羽藤 秀雄 著
出版元 同文館出版 A5判変型 248p
発行年月日・価格 2016年6月20日発行 2,000円(税別)
 本書の著者の羽藤秀雄氏は,2014年に退官さ れた元特許庁長官であり,通商産業省に入省後に基礎素材,情報,新規産業,技術開発,消費者行政などの多様な行政分野を担当され,さらに金融庁の企業開示参事官や,消費者庁設立時の初代審議官を務められた行政の経験が豊富な方である。通常,知的財産に関連する書籍と言えば,「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」や特許法等の改正時に発行される「産業財産権 法の解説」を除き,法曹界や実務家が執筆することが多く,著者のような特許庁長官を退官された行政のエキスパートが執筆する専門書は多 くはないと思われる。

 「はじめに」において著者が言及している通り,本書は知的財産,知的財産権,知的財産戦略の概説書であるが,特許・実用新案・意匠・商標といった産業財産権から,不正競争防止,著作権まで,各法制度の紹介や成り立ちから,世界の出願動向,今後の知財戦略について,幅広く網羅されている。また,本書は,他の知的財産に関する概説書と比較して,日本の知的財産制度や知的財産戦略をグローバルな視点から捉えられるようにまとめられている点と,実務家があまり触れることがない行政側の視点や動きも解説している点が特徴である。

 本書では,日本の特許法等の成り立ちを,福澤諭吉や高橋是清の足跡や,日本の最初の特許登録や商標登録から始まり,日本のみならず米国の特許制度や,パリ条約,ベルヌ条約,WIPOなどの成り立ちと国際出願の動向について最新のデータを用いて概説書としては詳細に解説されている。さらに,ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)や,TPP(環太平洋パートナーシップ協定)と知的財産との関連についても詳細に触れられている。また,日本や世界の出願や登録動向について,豊富なデータを用いて紹介しており,特許のみならず商標などのグローバルな出願・登録動向を理解することができる。この中で,日本の知的財産活動の動向を,日本の貿易収支の観点から解説している点は参考になる。そして,知的財産権に関する解説の後に,知的財産戦略と組織のあり方や,オープン&クローズ戦略,中小企業の知的財産や地域資源の活用について事例を紹介しながら解説している。

 このように,本書は知的財産とはどのようなものであるかを多くの人々に理解できるように解説されたものではあるが,国内外の豊富なデ ータや事例を用いて幅広く解説されているので,グローバルな知的財産に関する戦略や活動 を検討する際に参考となるだろう。

(紹介者 会誌広報委員 H. N)

新刊紹介

職務発明制度 Q&A 平成27年改正特許法・ガイドライン 実務対応ポイント

編著 経団連産業技術本部 編著  片山 英二/服部 誠 監修
出版元 経団連出版 A5判 120p
発行年月日・価格 2016年7月10日発行 1,300円(税別)
 既にご存知の通り,平成28年4月1日に「特許法等の一部を改正する法律」(平成27年法律 第55条)が施行され,今回の改正によって一定の要件の下,職務発明の法人帰属が認められることとなった。企業の知財担当者は,改正特許法に基づき自社の職務発明制度を変更すべきか否かで頭を悩ませているだろうが,同時に自社の総務・人事部門や経営陣等,必ずしも知的財産制度や職務発明制度に明るくない方々への説明も必要となり,この点も気になっているのではないだろうか。本書はこれらの課題を解決できる1冊と思われ,紹介する。

 本書はタイトルから明らかな通り,職務発明 制度(創設や改定,運用)への疑問について, Q&A形式で紹介されている。特筆すべき点としては,本書にも記載の通り,知財部門の方だ けでなく,総務・人事部門の方にも参考となる ような,平易な表現・内容となっている事であろう。確かに,知財部門以外の方が本書を読み進めたとしても,職務発明制度の大枠から順次理解できる記載内容となっている。

 また,用語への配慮がなされているのもポイ ントであろう。即ち,関連法令において,同じ言葉が異なる意味で使われていたりすることで,混乱しやすい内容もあるところ,実際に法令等で使用していない言葉で補うことで,本質的な理解が出来るようになっている。従って,各社の状況により,必ずしも知財に詳しくない部門の方が本件制度を検討しなくてはならなかったとしても,十分理解の助けとなる内容と言えよう。

 本書は概ね以下の構成でQ&Aが記載されている。第1章,第2章では,職務発明制度そのものと,法改正及び帰属関係について紹介されている。そして第3章,第4章では,今回の改正のポイントである「相当の利益」そして「訴 訟リスク低減」のための対応が記載されている。 更に第5章,第6章では「社内ルールづくりに関する留意点」が記載され,第7章では応用編が記載されている。最後に特許法第35条第6項の指針(いわゆるガイドライン)が掲載され,これに対するQ&Aも記載されている。

 本書の構成から,職務発明とは何か?という入口論から実務上具体的に行うべきポイントまでが網羅されている事が分かるであろう。

 知財部門の方は,職務発明制度や今回の改正に関連する一連の概要や具体的な対応策を理解するために,また,知財部門以外の方は,職務発明制度にまつわる現状を理解するために,大変参考となる書物と思われる。

 ぜひ,本書を手にとって理解を深めていただきたい。なお,知財管理2016年5月号では,本書の編集協力者である経団連・知財協合同職務発明検討プロジェクトワーキンググループが「改正特許法35条の実務上の留意点」と題して 論文を掲載しており,こちらも参考となる。

(紹介者 会誌広報委員 Y.H.)  

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詳説 独占禁止法審査手続

編著 榊原美紀,篠浦雅幸,多田敏明,長澤哲也,宮川裕光,矢吹公敏 著
出版元 弘文堂 A5判 344p
発行年月日・価格 2016年7月15日発行 3,500円(税別)
 「会社に突然,公取が立入検査に来たら,どう対応すれば良いのか?」
独占禁止法についての書籍は数多くあるが,この緊急事態への処方箋になるものはこれまでに無かった。もちろん独禁法違反はしないに限るのだが,どれほどコンプライアンスを徹底しても,結果的に巻き込まれてしまうことがある。 そのような時,読者は本書に大いに助けられるに違いない。

 立入検査という状況には直面しなくとも,知財担当者にとって独禁法違反は決して対岸の火事ではない。2016年1月改正の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」にある通り,規格標準化やライセンス活動,共同研究といっ た局面には独禁法抵触リスクが常に存在する。 独禁法と知的財産権法は,いわばコインの裏表の関係にあると言っても過言ではないだろう。 最近では著作権法に関連して,2018年開始予定の4K放送では録画禁止が検討されているとして,独禁法上問題になりうるといった記事が新聞に載り,国会で取り上げられたことも記憶に新しい。

 本書に先立って,2015年12月に公正取引委員会が「独占禁止法審査手続に関する指針」を公表している。この指針は,内閣府の「独占禁止法審査手続についての懇談会」が2014年12月にまとめた報告書提言を踏まえ公表されたものである。本書は,この指針に対応しているのは勿論であるが,現行の独禁法の審査手続が抱えている,言い換えれば公表された上記指針においても未解決の問題点にまで及んでいる。本書の「はしがき」によれば,執筆陣はいずれも上述の懇談会に直接関与していたという事で,まさに独禁法の審査手続の現状と課題を知り尽くした執筆陣だからこそ,ここまで深く鋭く切り込むことができたのであろう。

 第1章の総論に続いて,第2章で立入検査・提出命令,第3章で供述聴取,第4章で報告命令,第5章で異議・苦情申立て,第6章で課徴金減免制度,第7章で意見聴取手続と,審査手続の進行に沿って構成され,第8章では審査手続全体に関わる弁護士・依頼者間秘匿特権について詳説している。

 2016年3月には米国連邦巡回控訴裁判所が,弁護士資格を有さない米国パテントエージェン トと依頼人との間の通信についても秘匿特権を認める判断を示したが,我が国における弁理士の秘匿特権について考える上でも本書は参考になるだろうし,実務で独占禁止法に関わる立場にある読者にとっては,今すぐにでも(発生して欲しくない状況であるが)役立つであろう。

(紹介者 会誌広報委員 S.M)  

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