新刊書紹介

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[対訳]実務家のための欧州特許条約

編著 Hoffmann Eitle 編著
出版元 日本評論社 A5判 704p
発行年月日・価格 2016年11月8日発行 6,500円(税別)
 本書のタイトルは「実務家のための欧州特許 条約」である。このタイトルだけを読むと条文の趣旨や制定の経緯が解説されたいわゆる逐条解説的な内容を思い浮かべるかもしれないが,「実務家のための〜」という部分からも示唆さ れているように本書は単なる条文の解説にとどまらず,より実務的な「実務書」である。随所 にケースローを構成する重要審決が引用されているほか,著者らが実務に携わるうえで獲得したノウハウや実務上のアドバイスが盛り込まれ ている。また,本書は特に日本の特許実務との相違点に重きを置いて編集されており,会員企 業にとっては読みやすい構成といえるだろう。

 実務的という意味でわかりやすい例として毒入り分割出願(poisonous divisional)に関する論点を挙げておきたい。これは優先権の基礎となる出願に記載されていない内容を含む欧州出願を分割した場合に生じる問題である。決着が ついていない論点ではあるが,優先権主張をする欧州外の企業にとっては重要な内容であることから本書ではページを割いて解説されている。しかも単なるケースローの紹介だけでなく毒入り分割出願のリスクを下げるためのクレー ム起案の留意点にも言及されており,すぐにでも実務に生かせるアドバイスが充実している。 また,補正に関するセクションではいわゆる除くクレームにあたる「ディスクレーマ」を補正段階において導入することの可能性についても 触れられているが,これも実務解説書ならではだろう(条文解説集ではこのような実務的な論点はお目にかかれない)。当初の出願書類にディスクレーマの対象とする特徴が全く記載されていない場合にディスクレーマを導入する補正 が認められる余地があるかとの問題提起に対して,補正の要件が厳しいEPCでは無理だろうと直感的に考えてしまいがちだが,実はある一定のケースでは認められることがあるとの解説がされておりとても参考になった。どういう場合 に可能かについては是非本書で確認して欲しい。

 このように見ていくとEPCの「実務」を体系的に学べる書籍というのは非常に貴重だということに気づかされる。それも日本の実務家向けに日本語で書かれたものとなれば尚更だろう。 日頃欧州での出願権利化を担当している会員企 業の皆様にぜひお勧めしたい一冊である。

 ちなみに本書のタイトルに「対訳」とあるのは,見開きの左ページに英文,右ページに和文が配 置され,全編にわたって対訳の形式がとられていることによる。したがって和文解説だけではニュアンスが分かりにくい場合には左ページの原文を読んで意味を確認したり,あるいは欧州代理人とのディスカッションの際に原文をそのまま提示するといった使い方ができるだろう。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.)

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フェアユースは経済を救う

編著 城所岩生 著
出版元 インプレスR&D 四六判 256p
発行年月日・価格 2016年11月25日発行 1,950円(税別)
 2017年2月14日の新聞各紙に「文化庁は,事業者が著作物を無許諾で電子化し,ネット検索サービスで活用できるよう著作権法を改正する方向」との記事が並んだ。法改正時期は未定だが「グーグルブックス」のようなサービスが合 法化される見通しとなったのだ。
 本書の第3章によると,グーグルによる書籍検索サービス開始は2004年である。2005年には権利者団体が米国で訴訟提起,2008年の和解案は全世界に影響するため日本の権利者も大騒ぎとなったが裁判所が和解案を却下,2013年にフ ェアユースを認める判決を出した。そして上訴不受理により第2巡回区連邦控訴裁判所が2015年に出したフェアユースを認める判決が確定している。
 今回の特集号で見てきたような,第4次産業革命と称される技術革新が急速に進展し,商品やサービスがグローバルに流通する大競争時代にあって,適法化を受け13年遅れで市場参入が可能になったとして,果たして日本企業に勝ち目はあるのだろうか。
 IT技術を活用した新たなサービスが日本で生まれない要因の一つに著作権法があるとして,フェアユース導入が提案されたのは「知財推進計画2008」,それから既に10年近くになる。 イスラエルやシンガポール,韓国などにフェアユース導入が拡がる中で,政府が掲げる「日本を世界で最もイノベーションに適した国にする」方針を実現していくためには,今こそフェ アユース導入をすべきであり,その理由と処方箋を示すというのが本書のテーマである。
 本書は6章で構成され,全体で74個の小見出しが付された節に分けて書かれている事もあり,著作権分野になじみが薄い方でも,興味のある個所から気軽に読み進められるだろう。

第1章 イノベーションを育むフェアユース
第2章  漫画,アニメ,同人誌,コミケを守るフェアユース
第3章  フェアユースを武器にデジタル覇権戦争を仕掛けたグーグル
第4章  大胆な著作権改革で応戦したヨーロッパ
第5章  押し寄せるデジタル覇権戦争の荒波
第6章  TPP,デジタル覇権戦争が迫る「攻めの著作権法」への転換

 残念ながら,冒頭に触れた文化庁の検討では,フェアユース導入は今回も見送りという方向になってしまったようだが,「文化の発展」という法目的の一方で,国の成長を支える日本企業の競争環境の確保や,憲法が保障する表現の自由との関係の観点からも導入が必要と説く著者の提言は重く,多くの示唆に富んでいる。是非とも幅広い層の方に読んで頂きたいと思う。

(紹介者 会誌広報委員 S.M)

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レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」,どっちが賢い?
―特許・知財の最新常識―

編著 新井信昭 著
出版元 新潮社 四六判変型 190p
発行年月日・価格 2016年12月22日発行 1,300円(税別)
 巻末にある著者の経歴紹介をみるとわかる が,知財関連の書籍の執筆者としては非常に珍しい経歴の持ち主であろう。弁理士資格を予備 試験から受験していることもさることながら,タクシー運転手で貯めた旅費で世界一周をした り,秋葉原の免税店で働いていたり,実に好奇 心旺盛な方であろうとの想像が膨らむ。

 そのようなバックグラウンドも影響しているのか,本書の内容は軽快で親しみやすい事例が沢山挙げられている。タイトルに惹かれて読み始めたが,読み進むにつれてそんなものはどこかに 吹き飛んでしまうほどである。

 冒頭では,本書のタイトルにもある「伊右衛門」と「コカ・コーラ」を挙げて,特許出願を行う戦略とノウハウ保護による戦略との違いが説明されている。ノウハウ保護の例 としては他にもフライドチキン,老舗うなぎ屋の秘伝のタ レが挙げられており,身近な商品なので自然とイメージしながら理解できる内容となっている。 本書では,この正反対の知財戦略について 「ど ちらが賢いか?」との問いを投げかけているが, 筆者が終始熱く論じられているのは,知財をいかに戦略的に利用したら良いのかを判断できる能力,著者いわく「知財コミュニケーション能力」が重要であると伝わってくる。その一例と して,iPS細胞のノーベル賞受賞の裏で活躍した知財専門家の話が挙げられているが,訴訟を長引かせるよりも研究者のことを考慮して早期解決策を進めた苦労が 並大抵ではなかったであろうことが簡潔な説明ながらも十分に読み取れる。

 1章から4章では,技術流出・ノウハウ流出 の内容がしばしば出てくるが,特許出願をすれば大丈夫と考えている方に 衝撃を与える内容が述べられている。即ち「アイデアに国境はないが,特許には国境がある」ことから,せっかくの開発成果が無駄になってしまった事例が複数紹介されており,更には中国の白物家電メーカーの知財担当者が公言したインパクトのある言葉も紹介されている。また,秘密情報の漏えいが簡単に発生することは,著者がタクシー運転手をしていたときの実体験からの説明があり,とても説得力がある。

 印象的だったのは,3章で紹介されている事例で,特許取得をしたが権利範囲にノウハウまで含めてしまったが故に権利行使に失敗した 「鯨肉保存方法」の事例である。同様の経験から教訓を得た権利者も多いことであろうかと思う。

 また,クイックホイールやカーナビの事例では,特許訴訟で勝っても大きな代償を被る場合についてわかりやすく説明されており,技術の進歩に対して特許を取得するだけでは安心できないことを喚起している。

 このように本書は,盛り沢山の事例が簡潔にかつ分かりやすく解説されているので小説感覚で楽しく読める点で好感が持てる。ときには少々口調が過激とも感じられる表現もあるが,そこは著者の知財コミュニケーターとしての熱い思いから来ているとすれば寧ろ読み手側をも熱くさせるものがある。

(紹介者 会誌広報委員 K.O)

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