新刊書紹介

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ノウハウ秘匿と特許出願の選択基準およびノウハウ管理法

編著 高橋 政治 著
出版元 経済産業調査会 A5判 310p
発行年月日・価格 2017年10月11日発行 3,200円(税別)
 本書は,研究開発の成果に関する情報をノウハウ秘匿するための基準を中心的に解説し,体制構築の方法やノウハウ漏洩防止方法といった運用方法までを網羅する一冊となっている。概説の部分ではノウハウ秘匿の定義,メリッ ト,デメリットについて述べられている。次に,研究開発の成果に関する情報をノウハウ秘匿するか,特許出願するかの選択基準として基本的な考えとともに,8つの重要基準を詳述している。8つの重要基準の他にも,業態など,場合 によって検討すべき5つの基準についても解説 している。その上で,研究開発の成果の情報毎に取り扱い方を適切に選択するための社内体制,ノウハウの自社実施が他社特許を侵害してしまった場合への備え,ノウハウ漏洩の防止方法,技術漏洩した場合の救済措置について詳述している。このように,ノウハウ秘匿について各段階で知的財産を取り扱う部門が留意すべきことが時系列に沿ってまとめられていることにより,実務者視点で一通り理解できるだけではなく,実務の中で都度辞書のように使うこともできる。

 これまで,自社の研究開発の成果のうち特許性を有するものは全て特許出願してしまっていたのであれば,本書を一助としてノウハウ秘匿という選択肢も加えることにより自社の利益を高めることを検討する価値はあろう。また,自社内で既にノウハウ秘匿の社内制度を運用しているとしても,本書を一助としてより適切にノ ウハウ秘匿を選択し,体制を改善することを検討できよう。

 本書を通じて分かることは,ノウハウ秘匿は,社内の管理体制を整備し,ノウハウを選択し,漏洩しないようにすることは多大な労力がかかるものの,工夫をする余地もまた大きいということである。一方で,一度ノウハウ漏洩が発生 してしまうと,不競法による救済措置があるものの,救済が阻まれることもある。よって,いかに漏洩しないようにするかが重要であることを実感できる。ノウハウ秘匿が特許出願に比べると実務者にとって馴染みが薄いにも関わらず,本書は読みやすい。データ,業務の流れを適所に挿入した図とともに解説していること,実例をふまえながら具体的に説明していること,特許実務者であれば理解しているであろう用語を用いていることが理由であると考える。企業や研究機関の皆さまに限らず,特許出願以外にもノウハウ秘匿も選択肢とすることにより,バリエーションをもってクライアントに対してアドバイスしたいと考えている特許事務所の皆さまにもおすすめしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.S)

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