新刊書紹介

新刊書紹介

事例に見る特許異議申立ての実務

編著 千葉 成就 著
出版元 経済産業調査会 A5判 510p
発行年月日・価格 2017年10月19日発行 5,000円(税別)
 日本特許庁における特許査定率は近年増加し ており,中には従前では登録されないと思われ る特許も成立していると感じる。その要因の一 つとして,審査を厳しくするのではなく,審査 を加速するとともに,登録後は特許の見直しの 契機を広く第三者に求めるという付与後異議申 立制度に期待する側面があると思われる。

 その異議申立も徐々に件数が増えており,異 議申立を請求したこと,異議申立を受けたこと, どちらも経験される方が増えてきているように 思う。新規性・進歩性等の要件や考え方は,知 財関係者にはお馴染みの情報提供や拒絶理由通 知などと,異議申立とでは,大きくは変わらな いのだが,特許権者として異議申立の番号通知 が届いたときや,請求人として異議申立をする こととなったとき,慣れていない手続に不安を 感じる人もいるのではないだろうか。

 本書はその不安に応える1冊である。
 本書では,タイトルに「実務」と記載されて いるように,実務上の参考書としての役割をメ インとした本である。一般に,参考書と,読み 物としての読み易さとの両立は難しいが,本書 は,実務者が実際の局面において何をすべきか の参考にするには,有用である

 第1章は,実務作業をする知財部員や弁理士 が,確認のための資料として持っておくに十分 な程度に,実際の手続き上の注意や郵送での注 意など,非常に細かい部分にも触れており,好 感を持てる。特許庁HPに掲載の資料(特許異 議申立制度の実務の手引き)の範囲にとどまら ず,ノウハウのような記載や,実際に起きた失 敗例の記載もあり理解しやすい。

 第2章には,事例1〜4についての筆者が注 目した特記事項に加えて,実際の申立書や意見 書などの資料が載せられている。資料の参照は 筆者の記事を理解するうえで大変参考となる が,詳細に記載されている分そのボリュームも 多いため,時間のない読者は,例えば,百数十 ページ分の資料が添付された第2章の事例を読 むときには,「経緯」にある(P***)など の該当ページ数の記載や,最初の目次を確認し ながら目的のページを探すことをお勧めする。

 第3章は,第2章の事例1〜4における「経 緯」に記載の「様式P***」などから参照で きる様式資料としての役割がある。実際に特許 庁に提出する書類を作成する実務者は,最初の 目次から目的の様式を探しても良いだろう。第 3章の中にもいくつかの事例が記載されてお り,実務者が書類作成する際の参考になると思 われる。

 本書が手元にあることで,異議申立の番号通 知が届いたときや,異議申立をしたいとの要望 に対しても,自信をもって対応できると思わせ るような一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.A.)

新刊書紹介

知財の正義

編著 ロバート・P・マージェス 著
山根 崇邦,前田 健,泉 卓也 訳
出版元 勁草書房 A5判 512p
発行年月日・価格 2017年12月発行 6,800円(税別)
 読者の皆様は,発明者等から「なぜ特許制度 が存在するのですか?!」といった素朴かつ“鋭 い”質問を受けたことはないでしょうか?こう いった質問には「特許制度なんか無ければいい のに・・・」という意図が含まれているので,私 はこう答えることにしています。

 「特許制度が無いとすれば他人の技術をそっ くり模倣してもよいことになりますね。そうす ると,会社は他社に先駆けて苦労してまで新し いことにチャレンジするでしょうか?」 もっとも発明者からの“鋭い”質問は必ずし も上記のような単純なものには限られず,読者 の皆様も様々な“鋭い”質問に日々直面してい るかと存じます。

 本書の帯に「知的財産法の正当化根拠は何か, 果たして人類に裨益しているのか?本書はその ような根本問題を問う世界的名著である。東京 大学名誉教授 中山信弘」と記されているよう に,本書は知財制度の存在意義を深く論述して いるものです。
 本書の構成は,おおまかに示すと以下のよう になっています。

Ⅰ 「基盤」では,知財法の正当化の根拠の 基盤として義務論的リベラリズム(権利保護) に立ち,社会に役に立つ創作を行った創作者に 対して,その所有という形で労力に報いること が公正な社会にとって不可欠であり,そのこと により創作者に確かな生計の途を担保するから 知財制度は正当化されうるとしています。具体 的には,ジョン・ロックの専有理論,イマヌエ ル・カントのリベラルな個人主義,ジョン・ロ ールズの財産の分配効果といった理論を参照し ながら正当化の根拠を導いています。

Ⅱ 「原理」では,知財制度を運用する際の 指導原理が検討されています。具体的には「非 専有性」「効率性」「比例性」「尊厳性」の4つ の中層的原理を媒介させて,知財法制度の立法 や解釈の指針として位置づけています。

Ⅲ 「諸問題」では,Ⅰ,Ⅱの考察を受けて 現在の知財法制度が抱える各種課題がいかに解 決されるべきかが示されています。 本書は,2011年に原著として出版されたもの を,今回日本語に翻訳して出版したもので,原 著の出版後,約6年のタイムラグがあります。 しかし,哲学的思想を基に書かれた本書は6年 の年月を全く感じさせないものとなっていま す。実際,「日本語版への序文」でも言及され ている,「AIが“創作”した創作物に権利は与 えられるべきか」という近年の論点にも,本書 は明快な解答を与えるものとなっています。

  普段の業務に追われて「知財制度の存在意義」 という根本的な問題を検討する時間はなかなか 割けないかとは思いますが,発明者等からの “鋭い”質問に立ち往生してしまう前に,本書 を読むことをお薦めします。

(紹介者 会誌広報委員 S.Y.)

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