新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産権訴訟要論 不正競業・商標編 第4版

編著 竹田 稔 服部 誠 著
出版元 発明推進協会 A5版 664p
発行年月日・価格 2018年2月発行 5,500円(税別)
 本書は,知的財産権侵害要論(不正競業編)第3版に,知的財産権訴訟要論(特許・意匠・商標編)の中の商標編を合体させ,それぞれの刊行以後に行われた法改正に伴う記述を盛り込むとともに,新たな判例,学説などの最新の資 料を追加補充したものである。
 第1章において解説される不正競争防止法での不正競争行為中の不正な表示に関する規制や,会社法による不正商号の規制及び景品表示法による表示規制は,第2章において解説される商標法による規制と交錯する場面があり,実 務的にも重畳的に問題となる事例が多い。そのため,本書を通読することにより,不正競争防止法及び独占禁止法による不正競業行為の規律と,不正競争防止法,会社法,景品表示法及び商標法による表示に関わる規律,並びに,それらに関わる訴訟実務の全体像とその最新傾向を把握することができるものとなっている。
 法改正に関しては,「第1章 不正競争」において,平成21年,平成23年及び平成27年の不正競争防止法改正による営業秘密に関する規制強化,平成20年の景品表示法改正,平成21年及び平成25年の独占禁止法の改正が,また「第2 章 商標編」において,平成26年改正による新しい商標としての音・色彩・動き・ホログラ ム・位置の追加,商標の定義規定の改正,使用の定義の改正等が解説されている。判例に関しては,パブリシティ権に関する平成24年最高裁判例,前回の改訂以降に公表された,実務的に意義があると認められる知財高裁及び地裁の判例が多数追加されている。
 私は普段の業務で,不正競争防止法,独占禁止法,および商標法などに関する実務にはあまり携わっておらず,会誌広報委員会での活動等において,この分野に関する論説等を読むにあたり自分の不勉強さを痛感していたが,今回タイミング良く不正競争防止法と独占禁止法の研修と,商標法の研修の2つを同時に受講するという機会に恵まれた。
 前述のように本書には最近の法改正の解説と,関連する新たな判例,学説が掲載されているので,本書の関連する箇所を読むことで,受講中に疑問に思ったことを解消したり,研修内容を理解したりすることができ,本書は大変役 に立った。
 また,2つの研修を並行して受講したために,時にそれぞれの立法目的や,保護・規制の対象がこんがらかり,整理して理解するのに困難を感じたが,本書は不正競業編と商標編とを合体させたものであり,これ一冊が手元にあること でそれぞれの理解を早めることができたと思う。皆様にもお勧めできる一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 Y.R.)

詳解 著作権法(第5版)

編著 作花 文雄 著
出版元 ぎょうせい A5判 905p
発行年月日・価格 2018年3月発行 6,300円(税別)
 コンテンツのデジタル化とネットワーク化の進行に伴い,また,企業における著作権コンプ ライアンスが求められる中,著作権を取り扱う機会が増えた。一方,(自分自身がそうであるが)四法に比べて,専門知識が十分でなく,体系的 に著作権法を学びたいと考えている知財担当者も多いのではないだろうか? そのような方に,是非おすすめしたい書籍である。
 本書は,著作権法の定番本の一つで,初版刊 行から18年ぶり,第4版から8年ぶりの改定版であり,著者は,著作権法の立法政策や立法審査に従事された作花文雄先生である。第4版(平成22年4月刊行)以降の下記の最新の法改正・ 著作権制度に対応している。
  • 「 写り込み」等に係る規定の整備(平成24年)
  • 違法ダウンロードの罰則規定整備(平成24年)
  • 電子書籍に対応した出版権の設定(平成26年)
  • TPP交渉関連(著作権の延長等)(平成28年・未施行)
 以下,内容に触れる。
 最初に,世界及び日本における著作権制度の発展の歴史的経過がまとめられている。活版印刷の時代に著作権保護制度が創られたところから,世界及び日本において著作権法がどのように発展してきたか,そして,近年の国際的潮流についても概観されている。
 次に,著作権制度,著作隣接権制度,権利救済制度の概要が解説されている。通常の条文解説にとどまらず,条文に関する課題を,裁判例を紹介しながら,作花先生独自の視点で考察しているところが興味深い。例えば,応用美術の保護については,法制定時の立法経緯や立法趣旨,及び,過去からTRIPP TRAPP事件の知財高裁判決後までの我が国での裁判例の動向に加え,国際的動向までを解説し,今後どのように法の解釈運用が行われるべきかが述べられており,読み応えがある。
 続いて,著作権に関する主要な条約の概要が解説されており,著作権の国際的保護に関する理解を進めることができる。
 最後に,近年話題になっている著作権制度の課題が,数多く取り上げられている。インター ネット上の権利侵害に関して,サイトブロッキングやリンキングについて,また,著作物の国際的な流通に関する並行輸入問題,さらに Google Books等にみられるビッグデータの有効活用と著作権制度の課題が,裁判事例の紹介と共に分析されている。また,米国法型フェアユース導入議論について,各国の状況と我が国における課題が検討されている。
 頁数からも分かるが,かなり分厚い本で,簡 単に読めるものではないが,著作権法の条文に ついて,課題を考察しながら理解を深めることができ,じっくりと味わいたい本である。また,今後更に予定されている法改正(平成31年1月 1日施行予定)の前提となる現行法の理解にも役立つだろう。

(紹介者 会誌広報委員 C.F.)

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