新刊書紹介

新刊書紹介

こうして知財は炎上する  ビジネスに役立つ13の基礎知識

編著 稲穂 健市 著
出版元 NHK出版 新書 254p
発行年月日・価格 018年8月10日発行 820円(税別)
 本書を読んでいる際,まさに知財の炎上が起 きていた。
『HERO’Sと社長が同じである「株式会社 gram」が「ティラミスヒーロー」の名称及び ロゴを商標登録していたことも判明し,「日本の会社がパクられる側ではなくパクる側になっ た」という今までになかった構図も,大きな騒 動となった一因であることは間違いありませ ん。』『「株式会社gram」の出願には弁理士(または特許業務法人)が代理人として付いている ところも興味深いです…法律家が陥りがちなのが,法的な思考に固執するあまり,世論の反感を買ってしまうという,いわゆる「評判リスク (レピュテーションリスク)」を軽視してしまう ことです。』(著者のブログより引用)

 著者は本書でも「一般からの理解が得られなければ,獲得しようとしていた利益以上のものを失ってしまいかねない。これは知的財産の専門書などではあまり触れられないが,ビジネスとして考えた時の重要なポイントと思われる。」 と警鐘を鳴らすが,SNS普及などの環境変化を背景に,知財の問題であっても単に法的にアウトかセーフかの検討では不十分で,より幅広い観点でのリスク対応が必要となることを,企業の知財部員としては意識しておく必要がある。
 適切なリスク対応を検討する上で,まずは他者の事例に学ぶことは有用である。その点,様々な「知財の揉めごと」を多数取り上げて解説している本書は役立つであろう。

 本書は4章で構成される。第1章では,主に権利を主張する側の行為に起因する揉めごとを,第2章では他人のものを模倣・流用する側の行為に起因する揉めごとを,第3章では知的財産制度に関する認識のズレに起因する揉めごとを,第4章では知的財産制度にある抜け道の存在に起因する揉めごとを取り上げている。
 知的財産権で揉めることの多いパターンごとに,読者が身近に感じられるような多数の事例を通じて解説されているのだが,著作権,特許権,商標権など複数の知的財産権とその関連知識を網羅的かつ段階的に学習できるようになっている。そのため,普段知財に馴染みの薄い経営者や事業企画担当者,そして経験の浅い知財部員には,知財問題の入門書として役立つ。
 また多種多様なビジネスに関連した事例が紹介されているため,特定の業種や職種に限られない知的財産権に関する実践的な知識が得られるという点では,経験豊富な知財部員にとっても大いにおススメできる一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.H)

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