新刊書紹介

新刊書紹介

くまモンの成功法則 愛され,稼ぎ続ける秘密

編著 チームくまモン 著
出版元 幻冬舎 四六判 380p
発行年月日・価格 2018年8月23日発行 1,600円(税別)
 この本のページをパラパラとめくって目を通すと,くまモンが様々な著名人と共演した事例の見出しや写真の数々に目を惹かれてしまい,表紙のかわいらしさと相まって,くまモンの熱烈なファンのための書籍と思ってしまうかも知れないが,それではとてももったいないのである。
 本誌の読者ならば,この書籍の第2章「くまモン」を守る−著作権と商標権に最も興味を持つと思うが,第2章だけ読んでしまうと,それもまたもったいないのである。
 是非,最初から読み始めて頂きたい。第1章では,くまモンの生みの親である小山薫堂と水野学の両氏の仕事の流儀,および,熊本県の蒲島知事が県民のために目指すものと県職員である著者らに求めるもの,そしてそれらを基礎として定められた,熊本県の知名度を上げるための営業活動の行動規範が述べられている。
 くまモンといえば,ロイヤリティフリーという点がよく知られているが,それによって熊本県は何を狙っているのか,というビジネスモデルはなかなか知られていないと思う。この点についても第1章で述べられている。くまモンに関する利用許諾の種類は幾つか用意されているのだが,例えば食品に関する利用許諾の条件は興味深い。熊本県は国内有数の農業県であり,県内の農業振興をサポートする目的があるのだ。
 つまり,第1章はくまモン活用の戦略が述べられており,第2章以降は,その戦略に基づいた各種の戦術が述べられている。よって,第1章を読まずに拾い読みをしてしまうと,それぞれの戦術が縦横に繋がっていることに気付けず 単発なものに思えてしまうため,本書を読み誤ってしまうおそれがあるのだ。
 各章の最後に「チームくまモンの流儀」と題した短いコラムがあるが,ここも必読である。仕事に行き詰ったら「3つのS」,どうやってアイデアを出すか「仕事は楽しく」,なぜくまモンの用途を限定しないのか「くまモンの共有空間の広がり」と「独占しない」,どうやってビジネスの成功に繋げるのか「アニメとグッズと聖地巡礼」「もったいない」そして「一粒で二度美味しい企画」・・・など。単なるコラムと侮ることなかれ。各章のエッセンスをうまく簡潔にまとめており,且つ,キャラクタービジネスに関わらない人にとっても自身の仕事の取り組み方を振り返ることができる,とても示唆に富む内容となっている。
 本書は,地方自治体の「ゆるキャラ」知財をどのようにして守るかという点だけではなく,それを活用していかに地方創生ビジネスを展開 していくのかという視点でも読み進めていくことができる。ビジネス書として十分に読み応えがあるため,知財に従事する方々だけでなく,幅広い方々にお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 H.M.)

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