新刊書紹介
新刊書紹介
企業訴訟実務問題シリーズ 特許侵害訴訟
編著 | 森・濱田松本法律事務所 編 飯塚卓也・岡田淳・桑原秀明 著 |
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出版元 | 中央経済社 A5版 312p |
発行年月日・価格 | 2018年9月27日発行 3,500円(税別) |
本書は特許侵害訴訟の流れを通り一遍に示した解説書とは異なる。“実務問題シリーズ”というタイトル通り,本書は実務上知りたい有用な留意事項を示しつつも312頁とコンパクトにまとめている点がポイントである。実際に読んでみると,身近に置き辞書として頻繁に利用したいとの感想を持った。
例えば警告書。被疑侵害者として受領した警告書をどう取り扱うべきかについては,実務上迷う読者も多いはず。本書では売り込み目的の警告書に対して不用意な回答書の送付がもたらす意味など,当事者目線の記述が多くの項目で見られる。
また,IoT時代で特に問題となってきている論点も積極的にコメントしている点も見逃せない。例えば複数の者が特許発明の構成要件を分担している場合に差止請求の相手方は誰なのかという論点。この論点だけであれば,目新しさ はないのだろうが,本書では,国境を跨いだ侵害にまで論点を広げている。具体的には,工程やサーバの全部または一部が海外で行われている場合であって,発明の作用効果が国内で得られる場合の論点などにも言及している。これについては私見と断りを入れながらも差止請求できるとする見解を示しており興味深い。
均等論の記載では,定番通りボールスプライン事件を紹介した上で,均等要件の解釈をめぐる議論状況とともに,均等論の主張時期についての戦略にまで踏み込んでいる。マキサカルシトール事件の大合議判決や「時機に後れた攻撃防御方法」の視点から,早期段階での均等論主張の検討などがアドバイスされている。
特許の有効性の検討や議論に関しては,無効理由の検討の他,無効審判・異議申立てと訂正制度などを含めて60頁近くを割き,知財部員向けを意識してメリハリを効かせた配分にしている。無効審判請求のメリット・デメリットの解 説などは間違いなく参考になるであろう。
その他,計算鑑定人制度(特許法105条の2)に要する費用や期間,あるいは特許侵害訴訟の場合の代理人や補佐人となった弁護士・弁理士の報酬等の損害の目安額の情報など,いざというときに重宝しそうな具体的な数字も盛り込まれている。
著者自身が“臨場感を持った記述を心掛けた” とあるように,訴訟実務に不慣れな方のみでなく,ある程度実務をこなしている方にも役立つ と考えられることからお薦めしたい。
(紹介者 会誌広報委員 E.H)