新刊書紹介

新刊書紹介

米国特許クレーム例集 −現場で得たノウハウを例を用いて解説−

編著 山下 弘綱 著
出版元 経済産業調査会 A5判 300p
発行年月日・価格 2019年2月27日発行 3,500円(税別)
 私は米国特許実務が苦手である。英語力不足の為か,とも考えたこともあるが,同一ファミ リーの欧州出願は権利化できている。中国,日本などでも大きな問題なく権利化が出来ている。とするとアメリカ特許実務特有の理解が何 か足りないのであろうか,と思っていたところ,本書を手に取る機会を得た。

 本書の著者は,2008年(2010年に改訂版)に「米国特許法−判例による米国特許法の解説−」2017年に「米国特許実務−米国実務家による解説−」(知財管理2017年9月号の新刊書紹介で紹介済)という本も執筆されている(いずれも経済産業調査会発行)。1978年に特許庁入庁後,審査官,WIPOコンサルタント,審査長,審判長等を歴任,米国の法律事務所勤務を経て現職に至る。日本での長年の審査実務と米国での実務経験が豊富な方である。

 米国特許実務の苦手意識を克服すべく前2著書と併せて目を通してみた。3冊を対比すると以下の通りである。
1冊目「米国特許法・・・」は,重要な条文について,関連する重要判例を多数紹介しながら米国特許法の基本を理解できるように書かれている。
 2冊目「米国特許実務・・・」は,実務家としての見地から文字通り米国特許の実務を理解できるように解説されており,特にオフィスアクションにどのように対応すればよいのかを厚く解説している。
 そして本書は,クレームの書き方について,著者の長年の実務から得られた経験をもとに,クレームで使われる文言について具体例を挙げながら解説している。特に詳しく解説されている項目として概略次のようなことが解説されている。
 米国の審査・審判時のクレーム解釈は「クレームは,当業者によって解釈される明細書に照らし,合理的な範囲内で可能な限り広く解釈される」に関連して,程度を表す用語,相対的な用語,否定的な限定,といった注意を要する用語の具体例の解説(about,near,substantially,can・・・)。
 ミーンズプラスファンクションクレーム,プロダクトバイプロセスクレームやプログラムク レームといった特有なクレーム形式での注意点。
 近年,話題になることが多い101条(特許対象)に関する留意点。
 具体的なクレームの作成において便利な用語の紹介。
 なるほど,3冊それぞれ注力している内容があり,3冊セットで深く理解すれば,米国実務は万全という訳である。私のような米国特許に苦手意識のある方は3冊とも入手して手元に常備しておくことをお勧めする。もちろん,米国特許のクレームの書き方に特化して理解したい方にも,本書はお勧めである。

(紹介者 元会誌広報委員 S.Y.)

知的財産・著作権のライセンス契約

編著 山本 孝夫 著
出版元 三省堂 A5判 464p
発行年月日・価格 2019年4月26日発行 3,900円(税別)
 本書は営業秘密や著作権,商標等の各種知的財産の英文ライセンス契約についての,初心者から実務者まで幅広い読者を対象とした解説書である。著者の山本氏は大手総合商社出身で米英に駐在経験を持ち,退職後は明治大学法学部で15年にわたり教鞭をとっていた。豊富な実務経験と深い見識に裏打ちされた重厚な内容に仕上がっている。

 本書の特徴を3つ挙げる。1点目は本書に限らず他の山本氏の書籍に共通している事項だが,詳細かつ丁寧な例文や解説,対訳が掲載されていることである。契約関係の解説書には短か過ぎて実務では使えない条文案しか記載されていない書籍もしばしば見受けられるが,本書には実務で準用可能な例文がそれぞれの条文ごとに複数掲載されている。筆者によれば法務部員駆け出しの頃から大学教員を退職するまでの半世紀近くにわたり,印象に残った条文案をノー トに書き留めていたとの事である。また,解説や対訳が丁寧・豊富なことは,英文ライセンス契約の初級者から上級者まで幅広い読者に有益な内容であることを表している。実務担当者にとっては既に知っている内容も多いと思われるが,著者の在職中の苦労話や失敗談などに裏打ちされた細かなトラブル対策にも言及しており,考えさせられる箇所が多々あった。

 2点目は内容がストーリー性に富んでいることである。この種の書籍は逐条解説となり,無味乾燥な構成となってしまいがちである。この点,本書はAurora Borealis社という架空の企業を舞台に,新人法務部員である飛鳥凛が交渉 のテクニックや英文契約条項の知識を取得しながら上司や会社の同僚とともに,外国企業との交渉に挑む,という設定となっている。なお,いずれの登場人物,登場企業とも著者の命名によるものであるが,それぞれに由来がある。何 よりもAurora Borealis社という社名の由来が心に響いた(種明かしとなるため詳細は本書をご参照頂きたい)。

 3点目は映画作品やテレビ番組等の輸出ライセンス,テーマパークのフランチャイズ契約や商品化契約など,実に多種多様なライセンス契約を取り上げていることである。これらの契約に関わる機会があまりない業界の担当者でも, 記載されている例文や考え方は他に応用できるのではないだろうか。タイトルが「知的財産・著作権の〜」となっている割には,特許への言及が少ないことが気にはなるが,本書の内容を応用すれば,特許ライセンスにも十分対応可能 であろう。

 以上の通り,本書は英文ライセンス契約について,理論と実務の双方を兼ね備えた有益な書籍である。企業にとって知的財産は重要な経営資源であり,ライセンス契約はこの経営資源を有効活用するための重要な手段である。本書を自信をもってお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 K.I)

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