新刊書紹介

新刊書紹介

両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

編著 チャールズ・A・オライリー, マイケル・L・タッシュマン 著
入山 章栄 監訳,渡部 典子 訳
出版元 東洋経済新報社 四六判 416p
発行年月日・価格 2019年2月15日発行 2,400円(税別)
 「両利きの経営」と聞いて,何を思い浮かべ るだろうか。もし「経営戦略を人の手や車輪に例える話かな」と 先入観を持って本書を読むと,いい意味で裏切られること請け合いである。
 本書の原題は「Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator’s Dilemma」 。直訳すると,「リードと破壊:イノベーションのジレンマを どう解決するか」である。「イノベーションのジレンマ」は,クリステンセン教授の名著であり,「破壊 (的変化)」に直面した組織においては,成熟企業でも改善やコスト削減を継続的に行いつつ競争し続ける「深化」と,新しい技術 やビジネスモデルを探求する「探索」が重要と されてきた。
 本書は,これまで論じられることのなかった, どのように「深化」と「探索」とのバランスを 取り(「両利き」という) ,組織を「リード」す べきか,を豊富な事例に基づき,実践するため の原則やルールを解説するものである。 本書の副題は「『二兎を追う』戦略が未来を 切り拓く」である。「二兎追うものは一兎をも 得ず」ということわざのように「二兎を追う」 こと(深化と探索の活動)を躊躇しては変化に 取り残されてしまうことを示唆している。
  私事だが,社会人になって最初に入社した企業は,競合企業が二兎を追っていたにも関わらず,一兎を失う まいと,成熟市場でのシェアを手堅く確保することに注力し,競合の体力が消耗することを待つ戦略を採った。 本書に照らせば,それは「深化」と「探索」とのバランスが非常に悪い状態だったと思う。その結果,新し い市場でもシェアを伸ばしていった競合に敗れ,業界再編は加速し,その競合のうちの1つに飲み込まれて しまうこととなった。私は入社してまだ数年も経たない時期で,会社の戦略に関われる立場ではなかったが, 自分が勤務する会社が消滅するという体験は強く心に刻まれ,なぜ競合に負けてしまったのか,どのように私 を含め従業員は力を合わせるべきだったのか,と考え続け,戦略というものに興味を持つ契機となった。
 私はその後,存続会社となった前述の競合企業でなんとか働き続けることができ,存続会社出身の現社長が 全従業員に薦めたことがきっかけで本書を読むに至った。そのような経緯を踏まえると本書との出会いは不思議な巡り合わせ と思わずにはいられない。本書は,私が持ち続 けてきた前述の疑問に対してしっかりと答えて くれる内容だと思っている。
 企業の経営に直接関わる機会が無くとも,経営戦略を意識して知財業務にあたることは必須 であろう。知財業務に携わる人は勿論だが,変 化の激しい業界に身を置く全ての立場の人にお 薦めできる本だと思う。

(紹介者 会誌広報委員 H.M)

FDAの薬事規制と 医薬品特許権侵害訴訟 〜米国創薬ガイド〜

編著 ヨーク M.フォークナー,中村 小裕 著
出版元 経済産業調査会 A5判 390p
発行年月日・価格 2019年11月25日発行 4,000円(税別)
 米国医薬品市場は世界最大の規模であることから,製薬業界などの医薬関連分野の特許実務では,米国の 医薬品保護制度を十分理解しておくことは非常に重要です。また,米国の医薬品保護制度を理解するうえでは, 特許による保護に加えて,薬事規制に基づくデータ保護についても勘案する必要があり,米国の特許制度の他, 薬事制度についても理解を深めておくことが重要になります。
  本書では,米国の医薬品特許権侵害訴訟などの 種々の訴訟に精通した訴訟経験豊富な二人の弁護士によって,米国特有の特許制度や医薬品特許権侵害訴訟制度 のみならず,アメリカ食品医薬品局(FDA)による医薬品承認手続きについても詳細に解説されています。
 長年に亘ってクライアントや業界関係者から質問されることが多かったことが,本書を執筆することの後押しになった というだけあって,医薬分野の特許担当者が実務において抱いている疑問点や気になる情報がこの1冊に凝集され ており,米国の訴訟実務や薬事規制を把握されたい方に特にお薦めできる内容となっています。
 具体的には, 本書の第1章から第4章では,簡略新薬承認申請(ANDA)に代表されるジェネリック品の承認手続きなどを含む 新薬承認手続きについて詳細に解説されており,米国の薬事規制を理解する一助となります。また第5章から 第7章では,データ保護制度や実験的使用による免責条項(Bolar条項)の他,米国特有の医薬品特許権侵害 訴訟について解説されており,米国の医薬品保護制度を把握するうえで参考となります。
 第8章では,近年 研究開発が著しいバイオ医薬品特有の承認手続きについて解説されており,米国で医薬品事業を展開している,あるいは米国への医薬品事業進出を検討している医薬品メーカーやスタートアップ企業の方々にとっても参考 になる内容です。
 巻末には,引用した法規を参照できるよう,食品医薬品化粧品法(FDCA)やFDA規則の関連法規 が付録としてまとめられており,関連条文に遡って確認することができるので理解がより一層深まります。
 特に米国ではハッチ・ワックスマン法に基づく先発医薬品保護と後発品の承認申請促進の均衡を図った米国特有の パテントリンケージ制度が存在し,この制度に則るANDA訴訟等の手続きを理解するうえでも米国における 訴訟実務と薬事規制の両面について理解することが重要となりますが,本書ではそのような内容が1冊にまとめ られ非常に理解し易い内容となっています。
  これまで高いニーズがあったものの日本語で記載された関連書籍が あまりない本分野での情報源として有用であり,製薬業界関係者のみならず医薬品関連に携わる多くの方々に 是非一度,手に取って見て頂きたい一冊です。

(紹介者 会誌広報委員 K.T.)

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