新刊書紹介

新刊書紹介

オオカミ特許革命 事業と技術を守る真の戦略

編著 田所 照洋 著
出版元 技術評論社 A5判 320p
発行年月日・価格 2021年10月27日発行 2,948円(税込)
 タイトルにある「オオカミ特許」とは,権利行使ができる又はライセンス収入が得られる特許を意味する。本書では,権利行使できる特許をオオカミ特許,権利行使できない特許をヒツジ特許と名付け,「権利行使できない特許をいくら多数登録させても意味がない」との考えのもと,いかに上手く他社製品を含んだ特許権を獲得するかを解説したものである。
 内容は2部構成となっている。第1部は,今のままでは駄目だという認識を持ってもらうための内容である。著者に依ると,実に95%が権利行使やライセンスできない特許であるらしい。権利行使できない特許がいくら多くあっても意味がないということを,実例も交えて説明してあるので,説得力がある。第2部は,権利行使できるような特許を獲得するための戦術論で,広い権利範囲で登録させるための障害となっているのは何で,どう対応するかという内容である。本書の肝は第2部と言える。
 第2部の中でも,特に第4章「『拒絶理由通知』にひるむな! 審査での権利化戦略」は,私も日頃から権利化業務において心がけている内容である。文中「毒団子入り拒絶理由通知」や「ステルス拒絶理由通知」など,刺激的なネーミングが登場するが,内容はきちんとしているのでご心配なく。
 一部を紹介すると,拒絶の理由を発見しない請求項の番号を記載した拒絶理由通知を毒団子入り拒絶理由通知とネーミングしている。拒絶理由を発見しないと書かれた請求項の内容を盛り込むことで,詳細に検討することなく特許査定を受けられるが,それで本当に良いのかを十分に検討する必要がある。その上で,「毒団子」入り拒絶理由への3つの対策を提案している。あくまで広い請求項で頑張るか,審査官の提案は受けた上で分割出願するか,弁理士に詳細な検討を依頼するか,である。
 もう一つ,ステルス拒絶理由通知にも触れておくと,引例に書かれていないのに,あたかも書いてあるかのような拒絶理由通知のことで,「実質的に同じである」と指摘されるような場合である。紙面の関係で内容には触れないが,このような拒絶理由の見破り方として4つのコツを紹介しているので参考にしてほしい。
 全体を通して読んでみて,第4章は普遍的な内容であるが,オオカミにするためには第3章「特許請求の範囲」と,第6章の「補正」,第7章の「分割出願」を組み合わせることが肝と理解できるであろう。これらは,他社製品を含む特許にするための手法であり,権利行使に直結する手続きである。
 登録件数ではなく質を考えるときに参考になる書であり,出願権利化業務を行っている方に読んでほしい1冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.I.)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.