新刊書紹介

新刊書紹介

ロバーツ・コートの特許のかたち アメリカ最高裁の重要判例

編著 藤野 仁三 著
出版元 八朔社 四六判 200p
発行年月日・価格 2021年10月21日発行 2,420円(税込)
 アメリカは1776年に建国後,1789年に発行した合衆国憲法に特許条項を含めたことは有名な話だが,第二次世界大戦以降,世界トップの技術の発進地であり,イノベーションと共に知財制度を変化させ,他国も追随してきた。このような経緯から,知財実務者にとってアメリカの知財動向は常に意識させられる存在である。
 本書はアメリカ連邦最高裁判所に首席裁判官としてジョン・ロバーツが着任した2005年から2019年の特許事件34件の特許判例を紹介したものである。本書の構成は,非自明性や特許適格,特許侵害,消尽論など特許法関連のテーマを10章に分け,各テーマについて歴史的経緯やトピックとなる重要判例を挙げ,従来の考え方を変えた新判例について解説を行っている。各テーマを理解するための根底にある背景や解釈論,日本法との比較,判決文に関する説明,エピソード等が記載されているが,いずれの章も約20ページとコンパクトにまとめられており,現在に至る経緯を知るには非常に便利な一冊である。
 例えば,第1章で取り上げている非自明性では2007年のKSR最高裁判決以降,TSMテストが唯一の非自明性判断基準ではなく,他の基準の適用も考慮すべきとされたことを紹介しているが,そもそも特許性の判断基準が新規・有用性だった18世紀末から,ホチキス判決やグラハム判決などを経て,如何にそれ以外の要件が追加されてきたのか判例を辿りながら解説されている。また,判例だけでなく,ポスト・イット®など具体的な製品を例にグラハムテストとTSMテストのアプローチの違いなどが解説されており,読者にテーマの理解を促す仕掛けがされている。
 第2章の特許適格では,コンピュータ・ソフトウェアやバイオテクノロジー,ビジネス方法など,従来抽象的概念や自然法則,自然現象として特許を認めていなかったものが,先端技術として認められるきっかけとなった重要判例を取り上げている。分野も年代も異なるが,ディエール判決やチャクラバーティ判決に始まり,ステート・ストリート・バンク事件,ビルスキー判決,アリス判決,ミリアッド判決と各判決が連動し,現在の特許適格が如何に形成されたかを解説している。
 いわゆる判例集は紹介される判例が多すぎてすべての判例を読み解くのに苦労するが,本書は重要判例で且つ各テーマに関連する判示や争点に絞って解説しているため,テーマに集中して読むことが出来る。手早く米国の重要判例を理解したい方,興味を持たれた方にお勧めする一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.S)

頻出25パターンで英文契約書の修正スキルが身につく

編著 本郷 貴裕 著
出版元 中央経済社 A5判 244p
発行年月日・価格 2022年1月20日発行 3,080円(税込)
 ユニークな視点の書籍である。英文契約書の読み方や構造,その特有の言い回しについての解説書は,本誌の「英文契約書 最初の一歩」(2020年10月号および11月号掲載)をはじめ数多く見かける。しかし,契約書の修正方法にフォーカスした書籍は殆ど見かけない。企業の契約担当者であれば後者のスキルも求められるのが通常だが,多くの企業では書籍を通してではなくOJTを中心として担当者を育成していることが理由として挙げられるだろう。本書では契約書修正の目的を〜蠎衒に課したい義務や責任を追記すること,⊆社の義務や責任を狭めること,I毀棲里幣鮃爐鯡棲里砲垢襪海箸了阿弔吠けている。そのうえで,修正の際に使う頻度が高い25パターンを抽出し,それぞれについて問題点と解決策を提示している。
 いずれも基本的な内容であり,契約実務担当者であれば確認的な内容が多くを占める一方で,気付かされた点もいくつかあった。2つ紹介したい。
 1点目は契約上の当事者の義務である。この点,筆者は義務を負っている当事者は「最後まで,いくらかけてでもやり遂げること」に本質がある厳しいものだとしている。このことに関し,多くの人は契約書で責任上限を定めておけば一定の金額までしか負担しなくて良いと考えるだろう。筆者は,自身が所属していた大手電機メーカーの米国の子会社が請け負った原発建設案件で,当該子会社が最終的に建設できないこととなったため,親会社が追加費用を負担せざるを得なくなり,結果的に自社の優良事業部門を手放さなくてはならなくなった例を紹介している。請負者は理論上,破産して費用を負担する能力が無くなるまで,作り続ける義務があり,損害賠償責任の上限とは無関係だとしている。私は今まで,これは原発建設の請負契約中に責任上限を定める規定がなかったために生じた悲劇だと認識していたが,これが誤りであったことに気付かされた。
 2点目は契約書の条文についてである。英文契約について一定の知識や実務を積んでいると,不必要に冗長で難解な文案をドラフティングする傾向があると指摘する。例えば受動態で書いてみたり,同一の意味がある文言を繰り返してみたりである。後者については防御免責条項におけるdefend,indemnify,hold harmlessのように国や米国内の州によって異なった解釈がされ得る文言は別として,契約上の効果が同一であれば可能な限りシンプルな方が良いと説く。私自身,耳の痛い指摘であった。
 私の周りでも英文契約書の内容は理解できるが,どのように修正したら良いかが分からない,といった声はよく聞く。本書で記載されている内容は,英文契約にある程度触れた経験のある者であればそう難しい内容ではない。英文契約について一定の知識があることを前提とした応用編として,手元に置いておきたい一冊である。

(紹介者 元会誌広報委員 K.I)

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