新刊書紹介

新刊書紹介

IoT/5G/DXのネットワーク技術・セキュリティ技術 発展動向から知財戦略まで

編著 宮保 憲治・岡田 賢治・笠間 貴弘 共著
出版元 森北出版 菊版 216p
発行年月日・価格 2022年5月発行 3,960円(税込)
 経済産業省が2018年に発表したDXレポートを皮切りに,DXという言葉が産業界に浸透し,その重要性が叫ばれるようになった。DXレポートにおいては,「将来の成長,競争力強化のために,新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変する」ことをDXと定義している。事業としてDXに取り組む場合,当然,戦略や方針を検討することになるが,広い概念であるが故に具体的活動への落とし込みに困難を感じてはいないだろうか。
 本書はIoT,5G,DX,AIについて,具体的な技術とサービスが紹介されており,更にその技術群がレイヤーやシステム構成等で分かりやすく図示されている。また,実用化する上での重要技術や課題も提示されている。例えば,IoTが進展すると様々な機器の同時接続処理が必要となるが,IoTデバイスの低消費電力化と低コスト化を実現するLPWA(low power wide area)という無線通信技術が注目されており,Sigfox,LoRaWAN等の方式が既に実用化されている。このようにDX関連の有望技術も知ることができる。知財に関わる者としては,「権利化に向けた示唆」が大変興味深く,新規性・進歩性を見出せそうな技術ポイントを予め把握することができる。章によっては特許請求項まで例示されている。
 DXの定義については,DXレポートから一歩踏み込んで,「従来は別々の社会サービスとして認識されたものを,相互にリアルタイム結合し,効率的な情報流通サービスとして提供できる技術基盤の形成」と説明している。DXレポートではビジネス・モデル創出にやや重きが置かれているが,本書ではリアルタイム結合,即ちサイバー・フィジカル空間の重要性も強調されている。これを実現するために不可欠なクラウドやサイバーセキュリティについても詳細に解説されている。
 第6章「Society5.0を俯瞰したときの知的財産権を巡る特許戦略」ではAI,IoTを含めたコンピュータソフトウェア関連発明について,特許の活用,権利化の課題,新規性・進歩性の考え方等の特許戦略が述べられている。プログラムが公開されることの少ないソフトウェアは侵害確認が困難であると言われているが,侵害の主張立証の方法についても事例と共に解説されている。
 DXと言うと何か漠然としたイメージを持たれるかもしれないが,上述の通り「デジタル技術を活用したビジネス・モデル創出」と「サイバー・フィジカル空間の基盤形成」の両面で捉えると分かりやすいかもしれない。デジタル技術やサイバー・フィジカル空間の理解にあたっては,是非本書を参考にして頂きたい。

(紹介者 会誌広報委員 K.M)

知的財産契約の実務 理論と書式 意匠・商標・著作編

編著 大阪弁護士会知的財産法実務研究会 編
出版元 商事法務 A5判 504p
発行年月日・価格 2022年5月発行 6,050円(税込)
 私の業務の一つとして,知財契約の作成,チェックがある。例えば,社内の各部門から「今度○○社と〜といった取引を行うこととなったので,叩き台となる契約書案を作成して欲しい」という依頼をしばしば受ける。この場合,過去に類似した契約があればそれを参考とすることも可能であるが,ない場合は書籍を参考とすることとなる。ところが,契約の背景はそれぞれの取引によって様々であり,単に書籍を読んだだけでは対応できない場合も少なくない。これは,担当者の経験も一因であるが,依拠すべき書籍が外面的な解説に留まっていることも大きな理由として挙げられる。
 知財契約に関する参考書籍は,本書の他にも数多く存在するが,本書の特徴は,意匠権に関する契約について詳述していることである。実務で一定程度のニーズがあるにもかかわらず,同契約に関する解説がある書籍は極めて少ない。本書では,意匠権実施許諾契約では他の知財権の実施許諾契約と同様に,実施料計算方法やライセンシーへの実施料の報告義務など,いくつかの留意点が具体的な条文案とともに紹介されている。一方で,意匠権特有の留意点として,ライセンシーに対して,意匠権の実施品についてのライセンサーの指定する品質や規格を維持する義務を規定することを検討すべきと説く。またこの場合,ライセンサーの側も,実施品の製造に必要な図面の提供など,ライセンシーに協力すべきだとしている。私自身,意匠権実施許諾契約は過去に手掛けてきたことがあるが,このような指摘はもっともだと感じた。
 商標使用許諾契約に関しても,ライセンサーとライセンシーが親子会社の関係にある場合,他社の顧客吸引力のある商標を使用してライセンシーが事業を行う場合,自社が使用していたり商標登録出願した商標について,先行する他社商標権がある場合に対応策の一つとなり得る禁止権不行使契約の場合など,いくつもの場面に分けて解説している。実務でも様々なケースが存在し,通り一辺倒な解説書では対応できない場合も少なくない。本書では,さまざまなケースに分類され,それぞれのケースでの対応方法について整理して解説いただいており,より実践的である。数多くの案件を手掛けてきた実務家ならではの視点だと感じた。
 今回は「意匠・商標・著作編」を紹介したが,他の知財権の契約についての留意点も詳しく知りたいという方向けに,本書の姉妹書の「先端技術・情報編」や「特許編」もある。上述の通り多様な場面を想定して編纂されている本書は,契約担当者にとって信頼できる一冊である。 是非手元に置いて頂くことをお勧めする。

(紹介者 元会誌広報委員 K.I)

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