新刊書紹介

新刊書紹介

第2版 技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス

編著 鮫島正洋 編集代表
出版元 日本加除出版社 A5判 472p
発行年月日・価格 2022年7月発行 4,950円(税込)
 タイトルにもある「技術法務」とは,本書の定義を要約(意訳)すると「ゝ蚕儼呂了業体が,∋業遂行上に直面する問題について,K〔魁γ虜發鬟棔璽瀬譽垢剖郢箸掘い気蕕砲魯咼献優硬な視点も加え,づ該事業体の経営者との議論により,アドバイスを行い,イ修了業の競争力を向上させるべく行う法律的な業務」と言ったところか。全体を読んでみて,この内,の法的,知財的な視点だけでなく,ビジネス的な視点が必要というところが肝だと感じた。
 第2章で知財戦略,第3章は契約について述べているが,この2つの章で,ボリューム的にも約8割を占めており,本書の中核をなす章である。以下に内容をいくつか紹介する。
 第2章では,まず知財戦略における,4つのセオリを紹介している。(1)必須特許なくして市場参入なし,(2)必須特許取得のための二軸マーケティング理論,(3)一時的な活動ではだめだという知財経営定着理論,(4)特許がなくても製造できるレベルが上がってくるという技術のコモディティ化理論,といったものである。個人的には(2)の二軸マーケティング理論が,パテントポートフォリオ形成に役立ちそうと感じた。
 また,プラクティス編では,特許出願すべきかノウハウとして秘匿すべきかの判断方法や,秘匿する場合の注意点,特許出願する場合には権利行使しやすい特許の取得を目指すべきであるとして請求項の立て方や明細書の記載で注意すべき点などを解説している。裁判例も掲載してあるので,それぞれの考え方を理解するのにも役立つであろう。
 第3章では,契約に共通する注意点として実践的契約書の起案法の他,技術部門で締結しそうな契約の種類ごとの注意点を述べている。契約書を起案する際に,ビジネス内容の理解により主たる法律関係(秘密保持なのか,ライセンスなのか等)を確定し,それを円滑に進めるためのスキーム条項,トラブルの対応を決めたリスクヘッジ条項,想定通りに進んだ場合の仕切りを決めたWinWin条項といった,従たる法律関係を思考するというプロセスを取るそうである。
 また,ビジネスマンは成功の道筋を考え,法律家は失敗したときのリスクヘッジを考えるのが仕事であり,両者が1つのビジネスについて討議することで事業計画の質を上げることができる,というものである。特に契約ではあらゆるケースに対する想定,すなわちリスクヘッジが必要なため専門家のチェックは必須というのは納得のいくものである。
 法律事務所として相談を受けたときの考え方をまとめた内容であるが,その考え方は,特許の戦略立案や権利化にかかわる方,あるいは企業で契約に携わる方にとっても,非常に参考になるものである。是非,本書を手元に置いて参考にしていただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 M.I.)

XR・メタバースの知財法務

編著 関 真也 著
出版元 中央経済社 A5判 284p
発行年月日・価格 2022年9月1日発行 3,630円(税込)
 本書は,弁護士と上級VR技術者の資格をもつ著者による,XR(VR/AR/MR)に関する法律を体系的に解説した書籍である。XR技術の実用化が進むなか,仮想現実における法的課題についても検討が始まっている。これらの法的課題を整理するには,法律知識はもちろんのこと,XRの領域にも精通している必要がある。本書は,上級VR技術者の資格を持つ著者ならではの視点で,VRやAR,MRといった概念と,これらをめぐる法的論点を分かりやすく解説している。
 本書は,業務上XRの領域に携わる法務,知財の担当者にとって参考になることはもちろん,そうでなくても知財法に一定の知識がある方であれば,知的好奇心を掻き立てられるであろう。特に面白いと感じた事例と視点を一つずつ挙げたい。一つ目はXRを活用した広告の事例である。現実世界を再現したVR空間では,実際に設置された広告を他の広告と差し替えることがある。また,AR広告ではカメラが特定の広告を認識した際に重畳的に他の広告を表示することがある。この場合,元の広告主はVRやARサービスの提供者に対して何らかの請求は可能なのか。著者は実際に米国で裁判となった,映画の中で写り込む広告をデジタル技術によって他の広告に差し替えたことに関して,広告スペースの所有者等が商標権侵害(トレードドレス侵害)等を主張し,訴えを提起したケースを基に本事例を考察している。二つ目は意匠権の効力についての考察である。第三者が意匠権者に無断で登録意匠やこれに類似する意匠を実施することは意匠権侵害となるが,例えばバーチャルな衣服を再現しても意匠権侵害は成立しないと判断される可能性がある,と著者は指摘している。これは,有体物としての衣服は着用者の身体を守るなどの用途,機能を果たす物品であるのに対して,バーチャルな衣服にはそのような用途,機能はないためである。また,バーチャルな衣服を画像として表示する機器は,ヘッドマウントディスプレイやスマートフォン等であるが,これも有体物としての衣服とは用途,機能が異なる。このように,意匠の種類やその用途,機能等によっては,見た目が似ていても登録意匠の権利が及ばない場合がある。これを踏まえ,著者は,自社の市場をリアルとバーチャルのどちらに置くか,あるいは双方に置くかによって異なる意匠の保護戦略を検討すべきと説く。興味深い視点だと感じた。
 XRに関わる法的実務を遂行するには,既存の法律をベースとした理解はもちろんであるが,既存の法律が想定していない論点をどのように解釈すべきか,応用力も試される。本書は海外における最新の動向も紹介しており,探求心を掻き立てられる。刺激を受けながら法的知識と思考力を涵養してくれる一冊である。

(紹介者 元会誌広報委員 K.I)

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