役員談話室

心に残る経営者の言葉(II)

2007年09月04日

「私は現在出願業務を行っていますが、いろいろな専門分野に関する能力を身に付けるためにどのようにすればよろしいのでしょうか?」とある真面目そうな企業出身の知財部員から質問が出されました。知財人材育成に関するシンポジウムで、パネルディスカッションが行われた後に会場から発せられた質問です。その前のパネルにおいて「これからの知財人材は専門の隣接・周辺領域にも明るい広域専門職が重要となる。」という意見が出されたのを受けて出て来た素朴な疑問と言えます。

この広域専門職の議論は、従来の知財人材の典型例である一つの専門領域を高めていく高度専門職では「タコつぼ」に入り込んで肝心な時に役立たないという批判の中から出て来ており、知財人材育成論の中でかならず出てくるものです。私自身も単一の専門領域より、複数の専門領域を身に付けた専門家の方が企業に貢献できると考えていますが、その知財部員の質問は「ではどうしたら広域専門家になれるのですか?」という本質的な問いを投げかけたことになります。

その問いに対して、「知財部門から事業部門へのローテーションが良いのでは?」や「とにかく、他の専門分野に積極的に頭を突っ込んで行けばよい!」等のコメントが出されてその議論が終わるかと思った時に、ある人から「広域化の議論がなされていますが、私としてはまず一つの専門分野で一芸に秀でることが必要ではないかと考えております。そうすれば逆に、他の専門領域への広がりが出て来ます。」という意見が出されました。高度専門職と広域専門職とが別の方向として議論が展開されるなかで、この意見は高度専門職を目指す過程で広域専門職への可能性が生まれるというもので、非常に斬新な意見と言えます。

そう言えば以前中谷巌氏の著書「プロになるならこれをやれ!」の中に「どんな分野でも一万時間を費やして造詣を深めた人は、ある共通の境地に立つことができます。私はこれを鉱脈クラブに入ると表現しています。自分の専門分野をどんどん掘り下げて行くと、地下に流れる鉱脈に行き当たる。その鉱脈はすべての分野につながっていて、一つの鉱脈を掘り当てると、不思議に他の分野のことも見えてくるようになるのです。」という一節があるのを思い出しました。これは、一芸に秀でることの重要性を説いた先程の意見と共通するものがあります。

さて、この意見を出されたのは実は三菱電機の会長であり、当協会の会長をされている野間口氏です。 シンポジウムの終了後の懇親会で野間口会長に「先程の意見は、どのようなご経験に基づくものなのですか?」とお聞きしたところ、「昔、原子核反応の熱をテーマに10年ぐらい研究をやっていましたが、熱の発生というのはあらゆる電機製品に共通のテーマですので、いろいろな人から相談を受けるようになりました。それでパッと他の専門領域との繋がりができたのです。」というお答えがありました。それをお聞きし、野間口会長の実体験に基づくお言葉であることがわかりさらに感銘を受け、御紹介をさせていただこうと思い立った次第です。

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百瀬 隆(日本知的財産協会 常務理事)

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