役員談話室

アジア戦略プロジェクトに参加して

 アジア戦略プロジェクトは、アジアの新興国における知的財産尊重・重視の風土の定着と各国の知的財産制度の充実を図ろうとするもので、具体的には、各国で開催される知的財産 セミナーなど啓蒙活動へのJIPAメンバーの派遣や、先進国レベルの知的財産保護制度の確立のための要請、知的財産制度の利便性の向上への要請などを活動の中心としています。これらの活動を 行うにあたっては、JIPA会員企業のためのみを目的とするものではなく、アジアの新興国の現地企業や消費者のための知的財産制度の確立を目指すことを目的とした志の高いプロジェクトです。

 私は、このプロジェクトの担当理事を2年間勤めさせていただきました。この間、法改正の草案が出るなどのタイミングで、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドの各政府機関を訪問 しました。アジアの新興国でも、近年は法改正に先立ち草案へのパブコメが行われることが通常になっており、パブコメに意見を取りまとめて発信することによりJIPA会員企業の意見を一定程度 反映することができます。しかしながら、訪問することを前提に、意見交換したい内容とJIPAの意見を事前に送付し議論をすることは、大変有意義です。プロジェクトメンバーで検討したJIPA会員 企業の意見を直接伝え、先方の考えを聞き、理解できる場合があります。時にはJIPA会員企業の当該国での出願件数など制度利用の大きさを背景に、JIPA意見の説得など交渉を行うことがあります。 例えば、台湾やマレーシアにおいては、意匠制度の秘密意匠制度の導入または、公開延期期間の延長を求めました。日本における意匠制度の紹介だけでなく、制度ユーザーの視点から制度がない場合のリスクについて説明を行いました。また、インドにおいては、特許の早期審査制度の導入を要請し続け、制度の草案が提示されましたが、制度利用にあたって高額の費用などの条件が ついていたので、ユーザーは使うことがないであろうと説明し改善の言質を得ることができました。これも訪問して対面しているから得られたものであろうし、事前に検討していたことも伺えました。

 これらの訪問、交渉を通じて、JIPAの看板での面会の継続性が必要であると感じました。特にアジアでは、面会する人物の組織・地位だけでなく、面会する人物を知っているなど人間関係を 重視するような雰囲気があります。JIPA訪問メンバーを固定することは、現実的ではないので、必ず前回訪問した人がメンバーに加わるなどの工夫が必要でしょう。また、アジアの 政府機関では、アポイントメントをとる場合、出発直前まで決まらないことが普通です。このような場合も、以前訪問した人の名前で面会を申し入れると案外スムーズに面会日時が確定したり します。要請事項の整理、準備ももちろん重要ですが、ロジの工夫もアジア戦略プロジェクトでは重要と思います。

 最後に、中国訪問では岡本さん、古谷さん、アセアン訪問では大久保さん、堀さん、インド訪問では奥田さん、松井さんといったリーダー、事務局の方々だけでなく、プロジェクトメンバーには大変お世話になりました。アジア各国の知的財産制度は未だ多くの問題を持っています。今後もJIPAにおける当プロジェクトの活動を期待しています。

副理事長 別所弘和

  • マレーシア知財公社にて
  • オートリキシャとインド門
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