役員談話室

伊東 正樹(日本知的財産協会 副理事長)

「JIPA理事としての視点」と「知財部門のリーダーとしての視点」
2つの視点で深掘りする知財業界の今

JIPA理事は協会の責任者として、 国内外の動向や課題を大局的に注視し、
多種多様な会員の声を広く聞いて、政策に反映していく。
 JIPAの理事は2018年度から、副理事長は翌年度から務めています。それ以前は国際委員会の副委員長や業種別部会・地区協議会の幹事など様々な立場で関わってきましたが、理事となると、やはり扱う事項が会務全般にわたり、視点が大きく変わります。
 JIPAは一般社団法人ですが、その理事というのは、会社における取締役に相当し(英語では同じDirector)、理事会で意思決定を下したり、他の理事の職務執行のチェックをしたりすることが重要な役割となります。副理事長も理事職に変わりはなく、理事長の補佐という役割も持ちます。理事会では毎回多くの審議・報告事項が委員会やプロジェクト、事務局から上程されますので、理事会に諮る前に少人数の正副理事長会で協議します。
 私は企業の知財部長でもありますが、理事の立場では当然ながら個社を超えて、会全体の意見を聞いて対応する必要があります。私は東海地区協議会と知財問題研究会を担当しており、そこでは大企業から中小まで様々な方々と直接対話をする機会がありますが、最近は会員数も増えて、知財のあり方・考え方が多様化しているように思います。
 昔なら、知財の仕事といえば出願や調査、訴訟といった専門業務が重視されていたのですが、最近は事業がモノからコトへ変化し、異業種の参入、AI・IoTの発展、新興国の台頭などと環境がダイナミックに変化する中、経営における知財の位置付けが変わり、ビジネスそのものに関わることも以前より増えてきました。一方で、知財担当者が少ない企業やスタートアップも増えており、そこでは少ないリソーセスを如何に活用して効果を上げるか、虎の子の技術をどう守るかという課題にも直面しています。
 そういった様々な立場や課題を広く踏まえて、提言や方針を決める場合、多くの意見を聞いて纏めるのも難しくなっているように感じます。もっとも、これは委員長やプロジェクトリーダーの方々の方が大変と思いますが、広く意見を集約して、専門的にしっかり纏めてくださるのでありがたく思います。
JIPA理事は協会の責任者として、 知財部門のリーダーは事業や経営との連携を深め、
相手の立場で物事を捉えて戦略を策定する。
基盤である「知財人財」は将来のあるべき姿を見据えて育成する
 私は衙田自動織機の知財部長としてマネジメントをしています。当社は十大発明家である豊田佐吉を社祖とし、トヨタグループのルーツとして、繊維機械に始まり、産業車両、物流、自動車関連など多様な分野に事業を拡げて拡大してきました。90年代からはグローバル化を積極的に進め、大半を海外で売上げています。
 当社の社是である豊田綱領の中に「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」というのがあり、創業時より発明を推奨して事業戦略に活用してきました。知財部は社内全体に対して知財サービスを総合的に提供していますが、今は事業が多種多様になり、それぞれの事業体が別会社と言えるくらい内容も考えも異なるため、個別に知財戦略を策定しています。例えばある事業は市場競争が激しく、技術の囲い込みや活用を通じて優位性を確保することが求められますし、別の事業は自働化・デジタル化など拡大する技術領域に対して社外との連携やオープン化を展開するなど、それぞれに固有の課題があります。従って、各事業や経営層との連携を密にして、相手の立場で状況を詳しく理解する必要がありますが、そういった姿勢は理事と共通するものがあります。
 一方で、知財人財のベーススキルは共通していますので、一貫した育成計画を立てて、社内外の研修や海外駐在、担当者のローテーションなどを実施していますが、JIPAの研修や委員会も貴重な経験の場として全員の育成に多く活用しています。また、今後は知財部のあり方も変化し、情報発信や提言などが増えていくと考えますので、加えて分析力やビジネスリテラシーの強化なども進めています。
 昨年は豊田自動織機2030年ビジョンが策定され、その中で社会貢献とともにSDGs達成への貢献が謳われていることもあり、今年からWIPO GREENにパートナーとして参画することにしました。すでに208件の特許をデータベースに掲載していますが、今後も自社開発した技術をスピンオフさせ、知財側面から社会課題の解決にも貢献していきたいと思います 。

(季刊じぱ 2020年夏号 理事's eye より)

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