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〈中国〉知財訴訟の控訴審の一部が最高人民法院に集約される

 最高人民法院は,最高人民法院に知的財産の控訴審を扱う機構を作ることにより,科学技術をめぐる法的環境の改善に寄与しうるとして,2018年10月,第13期全国人民 代表大会常務委員会第6次会議において,イノベーションによる発展戦略を推し進め,中国の知的財産権の控訴審の一部を最高人民法院に集約することにより裁判基準を より統一させることを内容とする「専利などの知的財産権事件訴訟手続きの若干問題に関する決定」を提案し,これが可決された。
 この「決定」では,知的財産権事件の審理の質・効率の向上並びに各地における審理基準の統一を図るために,最高人民法院に知的財産法廷を設け,全国における専門性の 高い知財訴訟の一部の控訴事件を集中的に審理するとしている。
 この「決定」の具体的な内容は以下のとおりである。
  • 特許,実用新案,植物新品種,集積回路配置図設計,ノウハウ,ソフトウェア,私的独占等の専門技術性の高い知的財産権の民事事件の第一審判決又は裁定を不服とする場合, 当事者は最高人民法院に控訴することができる。
  • 特許,実用新案,意匠,植物新品種,集積回路配置図設計,ノウハウ,ソフトウェア,私的独占等の専門技術性の高い知的財産権の行政事件の第一審判決又は裁定を 不服とする場合,当事者は最高人民法院に控訴することができる。
  • 既に確定した上記事件の第一審判決,裁定,和解調書について,再審・控訴が提起された場合,最高人民法院は自ら審理し,又は,最高人民法院は下級人民法院を 指定して審理させることができる。
  • 本「決定」施行3年後の全国人民代表大会常務委員会において,最高人民法院は,本「決定」の実施状況を報告しなければならない。
  • 本「決定」は2019年1月1日から施行される。
 中国の司法機関は,最高人民法院,高級人民法院,中級人民法院,基層人民法院の4層構造となっており,当事者が第一審の判決に不服な場合は,その上級の裁判所に 一度だけ控訴する機会が与えられる二審制度をとる。そして,第二審裁判所が下した判決は確定判決であり,これに対して更なる上訴は原則として認められない (ただし,再審請求は可能)。
 現在までのところ,特許権侵害事件(民事事件)を担当する人民法院は,第一審が北京・上海・広州の場合は,それぞれの地域の知的財産権裁判所であり,これらの 地域以外では,多くの場合,中級人民法院が担当する。判決に不服の場合,第二審(控訴審)は,その上位の法院である高級人民法院にて行う。高級人民法院の判決に 不服の場合は,最高人民法院に再審を請求することができる。
 特許無効審判(行政事件)では,まず中国特許庁(CNIPA)の専利復審委員会に提起し,審決に不服の場合,第一審として北京知的財産法院に控訴できる。判決に対して 不服の場合,第二審として北京高級人民法院に控訴することができる。北京高級人民法院の判決に不服の場合は,最高人民法院に再審請求を申し立てることができる。
 中国における知的財産権に関する行政訴訟の件数は2015年から減少傾向にあるものの,民事訴訟の件数はここ10年,増加傾向を維持している。2019年1月以降は,前述の ように,特許,実用新案等の民事事件又は行政事件の控訴審,及び,意匠についての行政事件の控訴審は最高人民法院で審理されることになる。なお,商標については, 控訴審の最高人民法院への集約の対象外となっている。控訴受理から開廷までの時間がどのような影響を受けるか,また,審理の質と効率の向上が如何に図られるかが注目される。

(参考ウェブサイト)
中華人民共和国最高人民法院 ホームページ(英語版)
http://english.court.gov.cn/2018-10/24/content_37129469.htm

(参照日:2018年11月26日)

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