専門委員会成果物

特許審判部の決定は十分な証拠に裏付けられているとして,特許審判部の決定を支持した事例

CAFC判決 2017年12月28日
Microsoft Corporation v. Biscotti, Inc.

[経緯]

 Biscotti, Inc.(B社)は,リアルタイムビデオ通信システムに関する特許8,144,182(’182特許)の侵害を理由に,Microsoft Corporation(M社)を地裁に提訴した。これを受けて, M社は,先行文献により,’182特許のクレーム6(ビデオ通信システム)及びクレーム69(ビデオ通話の提供方法)は新規性欠如(anticipation),または自明である(obviousness)ことを理由として 無効と主張する当事者系レビュー(Inter Partes Review;IPR)を請求した。この請求を受けて,特許審判部(PTAB)は,M社が’182特許のクレームに新規性欠如,または自明であるとして特許が無効で あることを十分に立証しなかったと判断し,’182特許を維持する決定を下した。M社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 M社が主張した争点は,次の2点であった。第1の争点は,PTABが最終書面決定にて「過度に狭い新規性欠如の判断基準」を適用したとの主張であり,続いて,第2の争点は,第1の争点と 同じ理由に基づき,自明性においてもPTABは誤った判断基準を適用したとの主張である。
 先ず,第1の争点に関して,M社の主張に対し,PTABは,最終書面決定において,新規性欠如の判断基準を適切に説明した,と反論した。この反論において,例えば,新規性欠如と判断するには, クレームに記載された全ての構成要素を先行文献が開示しなければならないこと,更には,当業者が先行文献の記述に基づき,クレームに記載された構成を「直ちに予見できる」ならば,クレームに 全ての構成要素を「明確に記載する」必要はないことを適切に説明した,とPTABは主張した。他,PTABは「クレームされた発明を達成するために,当業者が組み合わせることができる複数の明確な教示」に 基づき,M社が新規性欠如を立証していない,と反論した。
 CAFCは,PTABの事実認定が十分な証拠によって裏付けられており,反面,クレームが新規性欠如とM社が十分に立証していないとして,M社の主張を退けた。
 続いて,第2の争点に関して,CAFCは,第1の争点を対象とした判断と同様に,自明性についても,PTABの決定は十分な証拠によって裏付けられていると判断して,M社の主張を退けた。
 以上より,CAFCは,’182特許が無効とするM社の主張について,その根拠の立証が十分でないとしたPTABの決定を支持した。

(山田 敬祐)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.