専門委員会成果物

IPRの消滅時効についての特許審判部の判断は再審理できるか否かをCAFCが判断した事例

CAFC判決 2018年1月8日
Wi-Fi One, LLC v. Broadcom Corporation

[経緯]

 Wi-Fi One, LLC(W社)は,電気通信を介して送信するメッセージに関する特許6,772,215(’215特許)を保有する。2013年に,Broadcom Corporation(B社)は’215特許を無効と主張して, 当事者系レビュー(Inter Partes Review;IPR)を請求した。これに対しW社は,B社がIPRを請求した日から1年以上前に,他複数社(他被告)に対して’215特許の侵害を理由に提訴していること,かつ B社が他被告との間に当事者としての関係があることを根拠として,消滅時効に該当すると主張し,この度のIPRは審理対象とならず拒否されるべきであると反論した。この反論について,特許審判部(PTAB)は, B社が前記当事者であることを,W社は立証できなかったと判断し,W社の反論を退けた。審理の結果,PTABは,新規性欠如を理由として,’215特許を無効と決定した。
 W社はこの決定を不服として,PTABの消滅時効の判断を取り消す又は却下するのが相応と主張して,CAFCに控訴した。
 CAFCはAchates判決(Achates Reference Publishing, Inc. v. Apple Inc., 803 F.3d 652, 658(Fed. Cir. 2015))を引用して,消滅時効に関するPTABの判断は,IPR開始に係る判断の一部であり 再審理はできないとして,PTABの審理開始決定を支持した。更に,CAFCは,Cuozzo最高裁判決は,PTABが法定期限を超えて判断できるようにするものではないとして,W社の反論は妥当でないと 判断した。その上で,PTABがその法律上の権限を超えたり,手続きに違反した場合は「そのような不正行為は適切に再審理できるであろう」とCAFCは述べた。
 これを受けて,W社は,消滅時効のあるIPRを審理開始対象とすることは最高裁が示す「不正行為」であり再審理すべきであると主張した。
 この主張を受けて,CAFCは大法廷による審議に付す,とした。

[CAFCの判断]

 CAFC大法廷は,特許法315条(b)に規定する“消滅時効”を対象とした決定を再審理できるもの,と結論した。すなわち,CAFCはAchates判決を無効としたものである。
 IPRの開始決定を最終決定かつ控訴できないもの,と米国の議会が特許法314条(d)に規定したことに基づき,特許法315条(b)に規定する“消滅時効”も司法的に再審理できないもの, とAchates判決に於いてCAFCは判断したが,CAFC大法廷は,AIAの趣旨を参酌しても,このように判断できる“明白かつ確信を抱くに足る表明”が見当たらない,として,上記結論に至った。
 CAFC大法廷は,この度の結論に基づき,CAFC(panel)へ差し戻した。

(藤村 眞理子)

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