専門委員会成果物

雇用契約のみで譲渡証への署名無しでは発明者の持分譲渡が認められなった事例

CAFC判決 2018年1月11日
Advanced Video Technologies LLC v. HTC Corporation, et al.

[経緯]

 Advanced Video Technologies LLC(A社)は米国特許5,781,788(’788特許)の侵害を理由に,HTC Corporation(H社)を地裁に提訴した。しかし,その訴えは,「’788特許の三名の 発明者のうちの一人(VH氏)の持分がA社に譲渡されておらず,VH氏と共同の訴訟でもないため,A社に訴訟当事者適格が無い」との理由で却下された。
 A社はこれを不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の理由により地裁の却下決定を維持した。
A社の反論主張は「VH氏はUSPTOに提出する譲渡証への署名を拒否したが,発明時の雇用者との間の雇用契約に基づいてVH氏の持分はA社に譲渡されている」というものであり,その根拠は 雇用契約における,権利の譲渡表明条項(“will assign”),権利の委託保持条項(“hold in trust”)及び権利放棄条項(“quitclaim”)の3つであった。
 これに対し,CAFCは,譲渡表明条項は単に「将来的な譲渡の約束」を規定するのみであり,実際の譲渡をもたらさないとした。そして,権利の譲渡と委託保持は同時にできないことから, 委託保持条項は上記の解釈を裏付けるものであると述べた。また,権利放棄条項は,実際に譲渡がなされた権利に関するものであり,実際の譲渡が起こらなかった以上,権利放棄の適用は無いとした。
 なお,付随する同意意見において判事の一人は,先決例の観点からCAFCの決定に同意しつつも,「裁判所は訴訟遂行に必要であれば,同意しない当事者に参加を命じることができる」 とする連邦民事訴訟規則の規則19の特許事件への適用を,その先決例が除外している点を,誤りであると指摘した。
 一方,付随する反対意見において別の判事は,雇用契約の詳細な分析に基づいて,譲渡証への署名が無くても,VH氏の持分が発明時の雇用者に属することは雇用契約から明らかであると, 多数意見と反対の見解を示した。

(吉田 晴信)

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