専門委員会成果物

地裁の特許を無効でないとする略式判決および増額賠償の判断を棄却，差し戻した事例

CAFC判決　2018年1月12日
Exmark Manufacturing Company Inc. v. Briggs & Stratton Power Products Group, LLC

［経緯］

　Exmark Manufacturing Company Inc.（Ｅ社）は，複数刃付きの芝刈り機に関する特許5,987,863（’863特許）の侵害を理由に，Briggs & Stratton Power Products Group, LLC（Ｂ社）を地裁に提訴した。
　地裁は，’863特許が複数回の再審査を経て存続していることを理由に，Ｂ社が主張した’863特許の無効性を認めないとする略式判決を行った。侵害行為については故意侵害と認定し，賠償額の２倍増額を認める判決を下した。
　Ｂ社はこの判決を不服として，CAFCに控訴した。

［CAFCの判断］

　Ｂ社が主張した第１の争点は，略式判決に関するものである。第２の争点は，増額賠償に関するものである。
第１の争点について，CAFCは，特許商標庁（USPTO）での複数回の再審査を経て維持されているという点だけをもって，地裁が特許の無効性を否定する略式判決を行ったことは誤りであると判断した。 CAFCは，主な理由として，以下の①，②を挙げた。

①USPTOでの再審査を経て維持されたことだけに基づく，特許は無効でないとする略式判決を正当化することはできない。そうでないと，USPTOの特許性の判断に，不当に遮断効を与えることなる，つまり，同じ先行文献に基づいて地裁で特許の有効性に異議を述べることを排除する結果となる。
②地裁は，USPTOにおける一方当事者による査定系手続きでの審査官の事実認定に縛られるべきではない。すなわち，USPTOでの再審査における事実認定は，地裁が，無効性を主張する当事者の主張が明白かつ確信を持つに足る証拠の立証基準を満たすかどうかの判断において考慮すべき事項であるが，USPTOの事実認定は地裁の決定をもたらすもの（dispositive）ではない。

　このような観点からCAFCは，地裁は全ての記録を考慮して，略式判決を妨げる真正な争点が存在するか否かについて独自の結論に至るべきであり，地裁はUSPTOでの再審査で考慮された証拠を含め全ての証拠を検討すべきであるとし，地裁が認定した事実が，略式判決を行うことを否定し得る証拠であるか否かについて，独立した決定をするよう，地裁に差し戻した。
　第２の争点について，故意侵害の判断において，被疑侵害行為時の被告の心的状態に関係するか否かを判断することなく，証拠を除外したのは誤りであるとして，増額の判断を破棄し，故意侵害について新たな審理が必要かどうかを決定するよう，地裁に差し戻した。
　CAFCは，被疑侵害者の抗弁が明らかに合理的であるか否かに関わらず，侵害の故意性は陪審により決定されるべきであるとしたHalo最高裁判決（2016）に反することを理由として挙げ，地裁の証拠の扱いは，裁量権の濫用に当たるとした。

（井上　幸子）

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