専門委員会成果物

システムを主題とするクレームにおける一部の構成要素のみから利益を得た場合には,特許法271条(a)の「使用」に該当しないとされた事例

CAFC判決 2018年3月6日
William Grecia v. McDonald’s Corporation

[経緯]

 個人発明家であるGrecia(G氏)は,デジタルメディアに対するアクセス制限に関する2件の特許(対象特許)を保有しており,対象特許の侵害を理由としてMcDonald’s Corporation (M社)を地裁に提訴した。
 G氏は,M社により使用されているVisaカードのトークン化システム(システム)が対象特許を侵害していることを主張した。主張によれば,このシステムは,商品購入時に顧客がVisaカードを 利用した場合に,M社のPOS端末からVisaが運営するサーバへ顧客番号が送信されるものである。G氏の主張に対し,M社は,自社が使用するシステムを構成する要素のいずれも,M社が制御する ものではない,すなわちVisa社がシステムを制御していることから,特許法271条(a)における「特許発明の使用」を充足しないとして,G氏の提訴を却下するよう請求した。
 地裁はM社の請求を認め,G氏の主張を退けた。G氏はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 判決では,Intellectual Ventures社の判決(Intellectual Ventures I LLC v. Motorola Mobility LLC, 870 F.3d 1320, 1329)が引用された。上記の判決では,特許法271条(a) の直接侵害が成立する要件として,システムを主題とするクレームの一部の構成要素から利益を得ることにより,被疑侵害者がシステム全体から利益を得さえすれば十分であるという主張が 却下されたものである。本判決でも上記ケースに則り,特許法271条(a)における「使用」を立証するためには,システムを主題とするクレームの一部の構成要素から利益を得ることの立証では 不十分であるとした。すなわち,権利者側に,被疑侵害者がシステムを主題とするクレーム全ての構成要素から利益を得たことを立証する責任があること,さらに,「利益」とは不確かなもの ではなく,実質的なものでなくてはならないことを示した。そして,例えば対象特許の1つでは,「少なくとも1つのトークンをメタデータに書き込む」という構成要件を有しているが,M社では, “店舗のPOS端末によるトークンの書き込み”は実行されておらず,クレームされたシステムの構成要素から利益を得ているとは言えない。よって,特許法271条(a)の「使用」の立証が不十分であるとされた。
 以上の理由から,CAFCは控訴を棄却した。

(上原 悠子)

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