専門委員会成果物

先の訴訟における特許のクレーム範囲と本質的に同じクレーム範囲である他の特許に基づく「後続訴訟」は認められないとされた事例

CAFC判決 2018年3月12日
SimpleAir, Inc. V. Google LLC

[経緯]

 特許権者SimpleAir, Inc.(S社)は,プッシュ通知技術に関する特許6,021,433(’433特許)と,この特許に基づく複数の継続出願にあたる特許7,035,914(’914特許),特許8,572,279(’279特許), 特許8,601,154(’154特許),特許8,639,838(’838特許),特許8,656,048(’048特許)を保有している。これらの継続出願に係る特許は全て,明細書および優先権主張が’433特許と共通する。 また,これらの継続出願に係る特許は全て,権利化時に,自明型ダブルパテントの拒絶を解消するために,ターミナルディスクレーマの提出を行っている。
 S社は,Google LLC(G社)が提供するクラウドに関する技術によるS社の保有特許の侵害を理由に,’433特許と’914特許とに基づく1件の特許侵害訴訟と,’279特許と’154特許とに基づく 2件の特許侵害訴訟とを提訴した。
 これら3つの特許侵害訴訟(先の訴訟)に於いて,裁判所はG社を支持し,非侵害との判決を下した。
 この判決を受けて,S社は,’838特許と’048特許の侵害を理由として,新規の特許侵害訴訟(以下,本侵害訴訟)(後続訴訟)を地裁に提訴した。
 地裁は,先の訴訟と本侵害訴訟との訴因が同じであるとして,本質的に同一(claim preclusion)の法理に基づく後続訴訟の排除効を認め,S社の訴えを退けた。
 S社は,この判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 そもそも,地裁は,本侵害訴訟に係る特許と,先の訴訟に係る特許とが,共通する明細書を用いていること,本侵害訴訟に係る特許は,審査段階に於いてターミナルディスクレーマの提出がされている ことを根拠に,本侵害訴訟に係る特許のクレームと先の訴訟に係る特許のクレームとを対比させるまでもなく,本質的に同一の法理を適用した。
 しかし,CAFCは,先の訴訟と後続訴訟とで異なる特許を主張した場合,これらの訴訟に係る特許のクレーム範囲が本質的に同じである場合に限って,本質的に同一の法理に基づく後続訴訟の 排除効が認められることを示した。
 よって,CAFCは,本侵害訴訟に係る特許のクレームと,先の訴訟に係る特許のクレームとを対比させることなく本質的に同一の法理を適用した地裁の判断は誤っていると認定し,地裁に差し戻した。

(小林 祐樹)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.