専門委員会成果物

優先権主張元の先願から上位概念のクレームで継続出願を行い,先願が先行技術となるか否かが争われ,特許法112条第1段落を満たすとして優先権の利益を認めた事例

CAFC判決 2018年3月14日
Hologic, Inc. v. Smith & Nephew, Inc., et al.

[経緯]

 Hologic, Inc.(H社)は,Smith & Nephew, Inc.(S社)が保有する特許8,061,359(’359特許)に対して当事者系再審査を請求した。 ’359特許は,先に出願されたPCT出願を優先権の基礎とし,先のPCT出願から継続出願されたものである。’359特許の明細書及び図面は,先のPCT出願と略同内容である。’359特許の審査過程で, 「light guide」というクレームの文言が図面に開示されていないとしてオブジェクションを受けた。S社は,審査官インタビューを行い,明細書の「a fiber optics bundle」という記載に対して 「a light guide, such as a fiber optics bundle」という補正を行うことで’359特許が成立した。
 その後,H社が請求した当事者系再審査において,PCT出願明細書は「a fiber optics bundle」のみを明示的に開示するが,「light guide」を明示的に開示していないことから,審査官は, ’359特許のクレームはPCT出願の開示範囲を超えるため優先権の利益を得られず,先のPCT出願が先行技術となるため無効であると判断した。S社は,これを不服として特許審判部(PTAB)に 上訴した。PTABは,’359特許のクレームは先のPCT出願の明細書及び図面に十分にサポートされているため,先のPCT出願は先行技術とならないと判断し,審査官の拒絶を覆した。H社は, この審決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,’359特許のクレームに対して,先のPCT出願は十分なサポートを開示しているとして,PTABの審決を支持した。
 CAFCは,’359特許は先のPCT出願に対して優先権を主張する権利があるというPTABの決定理由をサポートする実質的な証拠があるとして,PTABの審決を支持した。
 優先権主張が認められるには,112条第1段落(現在の(a)項)の記述要件を満たす必要がある。即ち,先のPCT出願明細書から,発明者がクレーム主題を所有していたことを当業者が 合理的に理解できるように記載されていたか否かに依って決まる。本事件において,当業者とは,工学系の学位を有し,本技術分野の設計開発に5年以上従事した者であるというPTABの 決定には争いがない。また,本件発明の技術分野は,予測可能な技術分野であるため,予測不可能な技術分野よりも,112条第1段落の記述要件を満たすレベルは低いとしたPTABの判断に CAFCは同意した。「a fiber optics bundle」が「light guide」の一例であることに争いはなく,また,本技術分野では様々な「light guide」が周知であったという事実から判断した PTABの結論は実質的な証拠によりサポートされているとCAFCは判断した。

(杉山 大輔)

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