専門委員会成果物

クレーム文言や明細書を参酌せずに一般的な辞書的定義に基づくクレーム解釈は不当に拡大された解釈であると判断した事例

CAFC判決 2018年3月19日
In re Power Integrations, Inc.

[経緯]

 Power Integrations, Inc.(P社)は,電磁ノイズを低減する電子回路に関する特許6,249,876(’876特許)を保有し,Fairchild Semiconductor International, Inc.(F社)が この特許を侵害しているとして,地裁へ提訴した。地裁は,対象クレームの「結合された(coupled)」という文言を,クレーム文言や明細書の開示を参酌したうえで「回路中の特定の電子部品同士が 特定の制御関係を満たすように結合された」と解釈するべきとするP社の主張を採用してクレーム解釈を行った。
 一方,地裁係属中に請求された査定系再審査において審査官が新規性欠如により対象クレームを拒絶し,その後,特許審判部(PTAB)が,「結合された(coupled)」という文言を一般的な 辞書的定義に基づいて「同一回路中に2つの電子部品が存在している状態」と解釈したうえで審査官の拒絶を維持した。P社は,これを不服としてCAFCに控訴した。これに対して,CAFCは, PTABの判断を棄却し,審理を差し戻した。
 しかし,差戻し審理において,再度PTABは,「結合された(coupled)」という文言を一般的な辞書的定義に基づいて解釈し,審査官の拒絶を維持した。
 これを受けて,再度P社はCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,まず,クレーム解釈に用いられる「最も広い合理的な解釈基準」は,クレーム文言や明細書の開示を考慮せずにクレーム解釈を行うことではないと意見を述べた。さらにクレーム解釈は, クレーム文言から始めなければならないと意見を述べた。そして,CAFCは,PTABは,クレーム文言や明細書の開示から導かれる「回路中の特定の電子部品同士が満たすべき特定の制御関係」を考慮せず, 一般的な辞書的定義に基づいて「結合された(coupled)」という文言解釈していると説明した。また,CAFCは,PTABによる一般的な辞書的定義に基づくクレーム解釈によると,他のクレーム文言が全く 無意味なものになると説明し,PTABが「最も広い合理的な解釈基準」を不当に広く適用していたと判断した。
 以上により,CAFCは審査官の拒絶を維持したPTABの判断を棄却した。

(北原 亮)

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