専門委員会成果物

当事者系レビューの口頭審理において新たに提出された議論は,適時性を欠くとして考慮不要と判断した事例

CAFC判決 2018年3月19日
Dell Inc. v. Acceleron, LLC

[経緯]

 Dell Inc.(D社)は,Acceleron, LLC(A社)が保有する,コンピュータネットワーク機器に関する特許6,948,021(’021特許)に対して当事者系レビュー(Inter Partes Review (IPR))を請願した。
 D社は,IPRの口頭審理において,請願書では言及が無かった新たな議論を提出してクレームの新規性欠如を主張した。A社は,D社のこの主張は適時性を欠くとして,手続き上の異議を申し立てた。 しかし,特許審判部(PTAB)は,A社のこの異議を却下したうえで,D社の新たな議論に基づき,対象クレームを無効とする決定を下した。
 この決定に対して,A社は,PTABは,D社の新たな議論についてA社側に反論の機会を与えなかったことで行政手続法に反するとして,CAFCに控訴した。CAFCは,A社の控訴を受け,審理をPTABに 差し戻した(Dell I)。PTABは,差し戻し審理において,先の決定を覆し,D社の適時性を欠く新たな議論を考慮せず,それ以前の議論に基づき対象クレームを有効と判断した。D社は,PTABの決定に 対して再度控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,先(Dell I)の差し戻し命令は,PTABに対して,D社の新たな議論の考慮を指示するものではなかったと説明した。
 D社は,CAFCの差し戻し命令は,SAS判決(SAS Institute, Inc. v. Complement Soft, LLC, 825 F.3d 1341(Fed. Cir. 2016))に反するものとして,CAFCは,PTABに対して,D社の新たな議論を 考慮するとともに,A社に反論の機会を与えるよう指示するべきだったと主張した。
 これに対して,CAFCは,SAS判決は,PTABがIPRの審理中に事前通知なしに途中で論理構成を変更し,最終決定書面において,新規であり且つ最終的に正しいクレーム解釈を採用したため,それに 対して両当事者に議論と証拠を提出する機会を与えることを差し戻し命令の中で指示したものであるが,本事件は,そうした事情に該当しないと判断して,D社の主張を退けた。
 さらに,CAFCは,USPTOガイドラインにおいて,当事者がIPRの口頭審理で新たな証拠または議論を提出することを禁じていることを提示して,PTABの決定を支持した。

(金杉 勇一)

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