専門委員会成果物

クレームにおける数値範囲と先行文献に開示された数値範囲とが重複せずに近接している場合に当該クレームが自明であるとした特許審判部の判断を支持した事例

CAFC判決 2018年3月27日
Dell Inc. v. Acceleron, LLC

[経緯]

 Gregory A. Brandt(B氏)らは,覆い板の密度が6lbs/ft3未満であることを特徴とする有蓋屋根に係る発明について米国特許出願13/652,858を行った。
 これに対して,審査官は,密度が6lbs/ft3〜25lbs/ft3である覆い板を有する屋根が開示された先行文献(Griffin)等に基づき,覆い板の密度を6lbs/ft3未満とすることは当業者にとって 自明であるとして,拒絶査定を下した。この査定を不服として,B氏らは審判を請求したが,特許審判部(PTAB)もこの拒絶査定を支持する審決を行った。この審決を不服として,B氏らがCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCでは,クレームと数値範囲が重複していない先行文献を以て自明性の一応の立証(prima facie obviousness)が確立されるとした審査官の判断の妥当性が論点となった。
 B氏らは,Patel判決(In re Patel, 566 F. App’x 1005(Fed. Cir. 2014))を引用し,クレームの数値範囲と先行文献の数値範囲とが重複している場合にのみ自明性の一応の立証がなされると 判断されるべきであると主張した。
 これに対して,CAFCは,Patel判決では,数値範囲の端点が曖昧であること又は柔軟に変更され得ることが先行文献において示唆されている場合には,自明性の一応の立証がなされたとして クレームを拒絶することは適切であり得ることも示されていると判示し,B氏らの主張を退けた。さらに,CAFCは,Peterson判決(In re Peterson, 315 F.3d 1325(Fed. Cir. 2003))を引用し, クレームの数値範囲と先行文献の数値範囲とが重複しないが十分に近接していることにより,当業者がそれらが同一の特性を有し得ることを予測可能である場合には,自明性の一応の立証が確立される, と判示した。その上で,CAFCは,Griffinには製造条件に応じて覆い板の特性が変化することが記載されていること,及びB氏らからクレームの数値範囲(6lbs/ft3未満)とGriffinの数値範囲 (6lbs/ft3〜25lbs/ft3)との差異の有意性が主張されなかったこと,を指摘し,クレームの数値範囲とGriffinの数値範囲との差異は事実上無視できるものであるため自明性の一応の立証が確立される, としたPTABの審決を支持した。

(杉野 真也)

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