専門委員会成果物

当事者系レビューの手続開始が決定された場合,特許審判部は請願書に記載された全クレームにつき最終決定書を発行しなければならないと判断した事例

最高裁判決 2018年4月24日
SAS Institute Inc. v. Iancu, Director USPTO, et al.

[経緯]

 ComplementSoft, LLC(C社)は,ソースコード生成・維持のためのソフトウエアツールに関する特許を保有しており,C社はSAS Institute Inc.(S社)のソフトウェアがこの 特許を侵害しているとし,S社を地裁に提訴した。S社は,C社が保有するこの特許について当事者系レビュー(Inter Partes Review(IPR))を請願した。このときS社は,請願書において 当該特許の全クレームについて無効性を主張した。USPTO長官(長官)は,請願書に記載されたクレームのうち一部についてのみIPRの手続開始の決定をした。そして,特許審判部(PTAB)は, 当該一部のクレームについてのみ最終決定書を発行した。
 S社は,請願書に記載された全クレームについて特許性の有無を判断することを特許法318条(a)がPTABに要求しているとし,最終決定書に瑕疵がある旨主張してCAFCに控訴した。しかし, CAFCは,Synopsys判決(Synopsys, Inc. v. Mentor Graphics Corp., 814 F3.d 1309(Fed. Cir. 2016))と同様に,特許法318条(a)がPTABに要求するのは単にIPRの手続開始の決定がされた クレームについて特許性の有無を判断することであるとして,S社の主張を拒絶した。
その後,S社は最高裁に対して裁量上訴を請求し,最高栽はこれを受理した。

[最高裁の判断]

 最高裁は,9名の判事のうち5名の多数派により,以下を理由にPTABはIPRの請願書に記載された全クレームにつき最終決定書を発行しなければならないと判断した。
 特許法318条(a)の明瞭な文言によれば,請願者が無効性を主張した全クレームについて,PTABは最終決定書で対応しなければならない。法にはIPRの「部分的手続開始(連邦規則42.108(a))」の 裁量を定めた箇所がない。
IPRが模した民事訴訟と同様に,IPRでは請願者が訴えの支配者であり,通常,提起したクレームの全てについて判断を受ける権利を有する。
 法は,IPRの手続が,請願者により提出された請願書にしたがうことを予定しており,長官の選択にしたがうことを予定していない(特許法311条(a),312条(a)(3))。
 もし議会がIPRの手続開始決定について長官に,クレーム毎(claim-by-claim)かつ無効理由毎(ground-by- ground)の方法で手続きを開始することを認めていたならば,査定系再審査に係る 特許法304条のような文言の規定をIPRについて設けていたはずである。

(山口 薫)

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