専門委員会成果物

親出願の援用記載が優先権主張の根拠として認められなかった事例

CAFC判決 2018年4月19日
Droplets, Inc. v. E*TRADE Bank, et al.

[経緯]

 Droplets, Inc.(D社)は,ネットワークを介して遠隔に格納したアプリケーション等のクライアントコンピュータへの表示に係る特許8,402,115(’115特許)を含む一連の特許権の侵害を理由に,E*TRADE Bank(E社)を地裁に提訴した。なお,本件特許に係るファミリー関係は次の通りである。
  • 仮出願US60/153,917(’917出願):最先有効出願を主張する出願
  • 特許6,787,745(’745特許):’917出願に基づく本出願
  • PCT出願WO01/20848(’848出願):’745特許の外国出願
  • 特許7,502,838(’838特許):’745特許の継続的出願
  • 特許8,402,115:’838特許の継続的出願(本件)
 E社は’115特許に対して当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請求した。PTABは(1)’115特許は直接の親出願以外の全ての先出願に対して適切に優先権主張がなされていない点,(2)該援用記載が先出願に対する優先権の主張の根拠として不十分な点より,最先有効出願日を’917出願とすることを認めなかった。この結果,’848出願が’115特許に対する先行技術として認められ,特許法103条を根拠として’115特許の全てのクレームが無効と判断された。
 D社はPTAB決定を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 優先権主張の要件に関するPTAB判断が争点となったが,以下の通り優先権主張を認めないPTAB判断をCAFCは支持した。
 まず,他の出願に対し優先権主張するための特定の参照の要件として,(1)先出願の出願番号,および,(2)先出願と優先権主張する出願との相互関係,の両方を明示することが特許規則1.78で規定されている。
’115特許には,’838特許と’917出願とについて援用記載のある優先権主張がなされていたが,’838特許と’917出願との間の出願である’745特許に対する参照がなされていなかった。 したがって,特定の参照要件を満たすものと認められない。
 また,援用記載は特許法112条の充足を目的としてなされるものであり,先出願の利益を受けることを目的としていない。したがって,援用記載の表記のみでは優先権主張するための特定の参照の要件を満たすものと認められない。

(松谷 慎太郎)

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