専門委員会成果物

特許裁判地法は外国企業被告に適用されないと判断した事例

CAFC判決 2018年5月9日
In re:HTC Corporation

[経緯]

 3G Licensing, S.A. 他2社(3G社)は,特許侵害を理由に,HTC Corporation(HT社:台湾企業)とその子会社であるHTC America Inc.(HA社:ワシントン州企業)をデラウェア連邦地裁に提訴した。
 HT社とHA社は,「デラウェア連邦地裁は適切な裁判地でない」と主張し,本訴訟の却下,又は裁判地の移送を申し立てた。
 これに対し,地裁は,同地裁がHA社の裁判地としては不適切である一方,HT社の裁判地としては適切であると判断した。その後,3G社は,HA社に対する訴訟を取り下げた。
 地裁の判断を受け,HT社は,本訴訟の却下を求めるべく,CAFCに対して職務執行令状の請願を行った。

[CAFCの判断]

CAFCは,以下の2点を示し,HT社の請願を否認した。
  1. 職務執行令状の発行基準:
     職務執行令状は,救済を得るための十分な手段が他に無い場合に限り認められる「荒療治」(drastic remedy)であり,たとえ遅延や不要なトライアルが生じたとしても控訴の代替にはならない。 HT社は,不要な訴訟手続を避けることのみ主張しているが,これでは不十分である。
  2. 外国企業被告に対する特許裁判地法の適用:
     HT社は,特許裁判地法(28 U.S.C. §1400(b))「特許侵害訴訟はいかなるものでも,(ⅰ)被告が居住している地か,あるいは(ⅱ)被告が侵害を行っており且つ定常的に確立された ビジネスを行っている地の裁判地に提起されなければならない」がHT社の裁判地決定において適用されるべきと主張した。
     しかし,Brunette最高裁判決(Brunette Machine Works, Ltd. v. Kockum Industries, Inc., 92 S.Ct. 1936(1972))によれば,一般裁判地法(28 U.S.C. §1391(c))は,「外国企業被告に対する訴訟では,すべての連邦裁判地法は完全に適用外である」という以前より確立された規則を単に反映したものである。この規則は,特許裁判地法に取って代わられるものではなく,また,TC Heartland最高裁判決(TC Heartland LLC v. Kraft Food Group Brands LLC, 16-341 S.Ct. (2017)),及び2011年の一般裁判地法改正によって覆されるものではない。
     さらに,特許裁判地法が一般裁判地法に取って代わるというHT社の見解に基づけば,少なくとも一部の外国企業被告が特許侵害訴訟を免れるという裁判地ギャップを生み出すことになる。
     したがって,外国企業被告は,特定の地裁への提訴に対する防御として特許裁判地法を用いることはできない。

(土江 健司)

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