専門委員会成果物

IPR請願時に申立に含まれなかった証拠を含む最終決定は不適法ではないと判断した事例

CAFC判決 2018年5月14日
Anacor Pharmaceuticals, Inc. v. Andrei Iancu(USPTO長官)

[経緯]

 The Coalition for Affordable Drugs X LLCは,Anacor Pharmaceuticals, Inc.(A社)が保有する感染症治療方法に関する特許7,582,621(’621特許)に対して,全クレームを 対象とする当事者系レビュー(Inter Partes Review(IPR))を請願した。
 IPRにおいて証言録取が行われ,IPRの請願書に記載はないが,関連する証拠について検討がなされた。特許審判部(PTAB)は,最終決定書において,請願書に記載のあった証拠および証言録取で導入された証拠に言及し,非自明性欠如を理由としてクレーム6を無効と決定した。
 A社は,PTABが最終拒絶の理由について適切な通知と反論の機会をA社に与えなかったことは行政手続法(Administrative Procedure Act(APA))の定めに違反するなどの主張に基づき,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABの手続に誤りはなかったとして,PTABの決定を支持した。
 「PTABは最終決定において,IPRの請願書に記載されていない自明性に関する新しい論拠を採用した」とするA社の主張に対し,CAFCは,A社が論拠とする過去の判決(In re NuVasive, Inc., 841 F.3d 966(Fed. Cir. 2016))とは異なり,本事案では,最終決定の根拠となった先行文献の組み合わせはIPRの請願の理由と同視し得るものであり,誤りはないと判断した。
 A社が不適法に採用されたと主張する先行文献は,IPRの手続である証言録取において導入されたものであったとしても当業者がIPRの請願書に記載された文献を解釈するために用いるであろう文献であることから,証拠の採用は不適法ではないとCAFCは判断した。
 APAに基づいて,特許権者はIPRにおいて拒絶の理由に関する通知と反論の機会が与えられ,IPRに関与することができる。A社はその先行文献に対して,反論を行っており,A社が提出した書面においても意見を述べている。したがってA社は非自明性について反論する手続上の権利を否定されてはおらず,充分な通知と反論の機会を与えられているとCAFCは判断した。

(井上 幸子)

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