専門委員会成果物

ビデオ及びスライド資料が特許法102条(b)の先行文献に該当するか否かについて,公衆がアクセス可能であったかどうかの観点で再審理するよう差し戻した事例

CAFC判決 2018年6月11日
Medtronic, Inc. v. Mark A. Barry

[経緯]

 Medtronic, Inc.(M社)は脊椎手術に使用される手術システムや器具を製造する。外科医のDr. Barryは保有する脊柱側彎症を処置するための方法に関する特許7,670,358(’358特許)及び 特許7,776,072(’072特許)に基づき,M社に特許権侵害訴訟を提起した。これに対し,M社は,両特許の全クレームを対象とした当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請願した。
 IPRにおいてM社は,先行文献として(1)特許出願2005/0245928,(2)脊椎手術に関する書籍,及び(3)M社が3つの異なる会議で配布した脊椎手術に関するビデオ及びスライド資料(以下, スライド資料等)に基づいて自明性を主張した。特許審判部(PTAB)は,(1)及び(2)に基づく自明性は認めず,(3)については公衆がアクセス可能な文献でなく特許法102条の刊行物に 該当しないと判断した。
 M社はこの判断を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,(1)及び(2)に関するPTAB判断を支持した。一方,(3)については公衆がアクセス可能であったかどうかについて全ての要素が検討されていなかったとしてPTAB判断を破棄し,差し戻した。
 CAFCは,まず,特許法102条(b)の刊行物性はその文献の開示の状況からケースバイケースで判断されること,特許法102条(b)の刊行物性は「公衆がアクセス可能」であったかどうかを基準に 判断され得ること,公衆がアクセス可能かどうかの判断はその文献に興味のある者が合理的な努力をして探し当てることができる状態に置かれていたかどうかで判断され得るとした。また, 公衆がアクセス可能であったかどうかの判断には,その会議の大きさや性質,開示される資料に興味がある参加者であれば制限なく開示されていたかどうか,資料の配布者と受領者との間に 秘匿性を保持することが期待される状況であったかどうかが考慮されるとした。
 本件では,スライド資料等は少なくとも2つの会議で受領者の限定なく配布されていた。また,CAFCは,資料が特定の専門化グループにのみ開示されていたとしても,それだけをもって 特許法102条(b)の先行文献に該当しないと判断するのではなく,配布者と受領者との間の秘匿義務の有無等についても検討する必要があるとした。

(中村 有希子)

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