専門委員会成果物

技術的な裏付けのない専門家の証言は実質的な証拠として認められないとした事例

CAFC判決 2018年5月29日
Ericsson Inc., et al. v. Intellectual Ventures I LLC

[経緯]

 Ericsson Inc.(E社)は,Intellectual Ventures I LLC(I社)が保有する,無線通信に関連した特許6,952,408(’408特許)のクレーム1-16を対象とする当事者系レビュー (Inter partes review(IPR))を特許審判部(PTAB)に請願した。請願理由の1つは,’408特許のクレーム1及びその従属クレームは特許5,592,480(’480特許)に基づいて新規性がない, というものであった。
 PTABの判断では,’408特許のクレーム1について特許性ありとの判断がなされ,その他のクレームに対しては特許性の判断が行われなかった。E社は上記のPTABの判断を不服とし,CAFCに控訴を行った。   

[CAFCの判断]

CAFCは,以下の理由により,’408特許のクレーム1に対するPTABの判断には誤りがあると判断した。
 I社の専門家は,’408特許と’480特許を対比した場合,到着データの再マッピング処理に関連して,構成および性能の差異があるとの証言を行った。これに対して,CAFCはHomeland判決 (Homeland Housewares, LLC v. Whirlpool Corp., 865 F.3d 1372, 1378(Fed. Cir.2017))を引用し,性能の差異に関するI社の専門家の証言には技術的な裏付けがないので,証言が実質的な 証拠にはならないとした。
 また,構成の差異に関してE社は,PTABの技術理解には誤りがあると主張した。PTABの判断においては’408特許のFig.8と’480特許のFig.3との対比が行われていたが,E社は,2つの図面に 開示された構成の差異の1つであるメモリ(DP RAM FHOP)が,実際には’408特許のクレームに規定されていないことを主張した。これに対してCAFCは,’408特許のクレーム1に記載された すべての構成要素が開示されていると認定し,’408特許のクレーム1を新規性なしとするE社の主張を支持した。
 上記のように,I社側の専門家の証言は証拠として認められないため,CAFCは,実質的な証拠として認められる’480特許の開示に基づき’408特許のクレーム1を特許性なしと判断し,PTABへの 差し戻しを行った。また,CAFCは,先のPTABにて判断がなされなかった従属クレームについての再検討を行うことが必要であるとした。

(鈴木 信一郎)

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