専門委員会成果物

公知化合物であるラセミ化合物のエナンチオマーの特許性が有効と判断された事例

CAFC判決　2018年５月23日
UCB, Inc., et al. v. Accord Healthcare, Inc., et al.

［経緯］

　抗てんかん薬ラコサミド（製品名：Vimpat?）は，再発行特許38,551（’551特許）により保護されており，2008年９月より，’551特許の実施許諾者であるUCB, Inc.（Ｕ社）が販売をしている。
　Accord Healthcare, Inc., et al.（Ａ社）は，ラコサミドの後発品（ジェネリック品）の承認申請にあたり，Hatch-Waxman法の下に，’551特許（クレーム９，10及び13）が，無効であることから，ラコサミドのジェネリック品の製造・販売は，’551特許を侵害していないと主張し，ANDA（医薬品簡略承認申請）を米食品医薬品局（FDA）に提出した。
　これを受け，Ｕ社は，Ａ社が’551特許を侵害しているとして，デラウエア州地裁に特許侵害訴訟を提訴した。2016年にデラウエア州地裁判決では，’551特許は無効ではないと結論付けられた。Ａ社は，当該地裁判決を不服とし，CAFCへ控訴した。　

［CAFCの判断］

　CAFCでの審理におけるＡ社の主な主張点は，’551特許（クレーム９，10及び13）が，①自明型二重特許，及び②新規性喪失を理由として無効とされるべきことである。
　①について，Ａ社は，’551特許（クレーム９，10及び13）は，特許5,654,301（’301特許）を根拠に，自明型二重特許であると主張した。しかし，CAFCは，’301特許でクレームされた置換基の組み合わせから，ある特定の置換基を別の置換基へ変換することには成功の合理的な期待が無いとして，’551特許に特許性があるとした地裁の判断を支持した。
　更に，Ａ社は，特許5,378,729（’729特許）において，対象となる置換基が好適であることが自明になっていると主張した。しかし，CAFCは，何百万の可能性のある選択肢より，ある特定の置換基の組み合わせ（この場合，R3基のメトキシメチル基，R基のベンジル基，R1基のメチル基）を選択して’551特許の発明に到達する可能性は無く，又，’551特許の発明に到達する為に’301特許の化合物を誘導化する動機も無く，更にそれらに成功の合理的な期待が無いとする，地裁の判断を支持した。
　②について，Ａ社は，ラセミ化合物107eが公知であるので，’551特許の発明（クレーム９：ラセミ化合物107eのＲ－エナンチオマー）の新規性が無いと主張した。しかし， CAFCは，エナンチオマーが分離可能であるという知見により，分離／同定／特徴付けされていない特定のエナンチオマーが新規性喪失することはなく，又，エナンチオマーの新規性が，そのラセミ化合物の開示によって否定されないとして，ラセミ化合物107eが’551特許の発明と同一ではないという，地裁の判断を支持した。

（内田　秀春）

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