専門委員会成果物

損害賠償額の算出に全体市場価値ルールを用いた地裁の判決を破棄した事例

CAFC判決 2018年7月3日
Power Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc., et al.

[経緯]

 Power Integrations, Inc.(P社)は,電源コントローラチップのスイッチングレギュレータに関する特許6,212,079(’079特許)と電源コントローラに関する特許6,538,908(’908特許)の 侵害を理由に,Fairchild Semiconductor International, Inc.(F社)を地裁に提訴した。陪審員は,F社が’079特許を文言侵害,’908特許を均等侵害していると判断した。損害賠償額の 算出として全体市場価値ルール(entire market value rule)を適用し,P社に約140百万ドルの損害賠償を認めた。
 F社はこれを不服とし,CAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,F社が’079特許と’908特許を侵害するとした地裁の判決を支持した。しかし,損害賠償額については,再審理すべきというF社の主張に同意した。
 裁判では,損害賠償額の算定として,全体市場価値ルールを適用するか否かが争点となった。
 CAFCは,特許された特徴が顧客の需要の基礎となっている場合,全体市場価値ルールが複数の特徴を含む製品全体の価値に基づいて損害賠償額を算定することが可能になる点に留意した。 また,CAFCは,製品に顧客の需要を促進する他の価値ある特徴がある場合,損害賠償額は,特許された特徴の価値のみを反映する必要がある点についても留意した。
 本件では,F社製品には,特許された特徴以外にも,他の価値ある特徴が含まれている点について,両社は合意した。しかし,P社は,他の価値ある特徴が顧客の需要に及ぼす影響や, 製品の価値に関与している度合いについての証拠は示さなかった。
 CAFCは,特許された特徴が顧客の需要の唯一の要因である場合,または実質的に構成部品の価値を創出する場合にのみ,全体市場価値ルールを用いることが適切であると述べた。 特許された特徴が必須であると見なされていること,製品が特許された特徴なしで商業的に実行可能でないこと,または顧客が特許された特徴がない製品を購入しないこと,をただ 単に示すだけでは不十分である。そして,製品に他の価値ある特徴が含まれている場合,特許権者は他の特徴が購買意思決定に影響を与えていないことを証明しなければならないと述べた。
 P社が提示した証拠は,全体市場価値ルールを行使するためには不十分であったため,CAFCは,地裁で算出された損害賠償額を破棄し,再審理のために差し戻した。

(山田 敬祐)

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