専門委員会成果物

ネイティブアメリカン部族の主権免除特権はIPRには適用されないとされた事例

CAFC判決 2018年7月20日
Saint Regis Mohawk Tribe, et al. v. Mylan Pharmaceuticals, Inc., et al.

[経緯]

 Allergan, Inc.(A社)は慢性的なドライアイの症状を緩和するための治療剤に関する特許群を保有する。
 A社は,ジェネリック医薬品製造会社であるMylan Pharmaceuticals, Inc.(M社),Teva Pharmaceuticals USA, Inc.,Akorn, Inc.(3社合わせて被控訴人)を, 2015年に地裁で提訴し,ドライアイの治療薬に関する特許群に対する特許権侵害を主張した。その後,被控訴人は当事者系レビュー(Inter partes review(IPR)) を請求し,特許審判部(PTAB)は手続開始の決定をした。
 2017年9月に,A社は,IPRから特許を守る事を目的として,特許群をセント・レジス・モホーク部族(モホーク族)に譲渡した。モホーク族はネイティブアメリカン部族の主権免除の権利があると主張してIPR手続終了の申立を,A社は自らをIPR手続の当事者から外す申立を行った。
 PTABがこれらの申立を却下した事を不服として,A社とモホーク族がCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCはPTABの決定を支持し,モホーク族の主権免除特権がIPRには適用されないとした。
 モホーク族はFMC判決(Fed. Maritime Comm’n v. S.C. State Ports Auth., 535 U.S. 743 (2002))に基づき,IPRに主権免除特権が適用されると主張した。 FMC判決で問題になった連邦海事委員会の手続と同様に,IPRはUSPTOではなく請願者が手続の輪郭を定めるため,民間当事者間の手続であると主張していた。一方で,被控訴人は,IPRは行政執行手続に類似し,主権免除でIPR手続を防ぐことはできないと主張していた。
 CAFCは,IPRは民間当事者による民事訴訟よりも行政執行手続に近いため,部族の主権免除をIPRにおいて主張することはできないと判示した。第一に,特許庁長官は審理を開始するかどうかを決定する幅広い裁量を持っている。第二に,一度IPRの手続の決定がなされると,たとえ請願者が参加しないことを選択したとしてもPTABは審理を継続することができる。第三に,IPR手続と連邦民事訴訟規則との間には大きな違いがある。第四に,モホーク族は主権免除が査定系再審査と当事者系再審査には適用されないと認めている。
 上記の理由により,CAFCはPTABの決定を支持した。

(陶山 研悟)

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