専門委員会成果物

クレームされた発明がひとつでも実施不可能の場合,特許法112条の違反であると判断された事例

CAFC判決 2018年7月25日
Trustees of Boston University v. Everlight Electronics Co., Ltd., et al.

[経緯]

 Trustees of Boston University(B大学)は,分子光線エピタキシーを通じた単結晶GaNフィルム生成に関する特許5,686,738(’738特許)を保有し,Everlight Electronics Co., Ltd. 他6社(被告)がこの特許権を侵害しているとして,地裁へ提訴した。地裁では,対象クレーム19の「非結晶バッファー層上における単結晶成長層の形成」に関して陪審員による審理が行われ,被告の侵害が認められた。それを受けて,被告は,対象クレーム19が特許法112条の実施可能要件を満たしていないとして’738特許は無効であるとした判決を求める申立を行った。地裁は,’738特許が非結晶バッファー層の直接上で単結晶GaN層を成長させる方法を示しているかどうかは明確ではないと述べたものの,最終的には,被告による立証は不十分とした陪審員の判断は合理的だったしたとして,被告の申立を拒否した。  
 被告はこれを不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,まず被告の主張について確認を行った。被告は,対象クレーム19における非結晶バッファー層の直接上で成長する単結晶層が付されたデバイスを生成する方法は明細書では示されていないため,実施不可能であると主張した。さらに,被告のエキスパートも非結晶バッファー層の直接上でエピタキシャルに単結晶が成長することは不可能であることを証明しており,それに対して,B大学も同意していた。そのため,CAFCは,エキスパートが実施不可能であると証明したことを明細書では可能にしていないと容易に判断できるとした。
 また,CAFCは,本訴訟における論点が,特許出願時点において当業者にとって過度な実験をすることなく対象デバイスを明細書によって生成できるかどうかであることを踏まえると,B大学の反論はいずれも明細書によって導かれたものではなく,また,特許出願時の当業者にとって当たり前の範囲内でもなかったとした。
 最後に,B大学は,非結晶バッファー層の直接上で成長する単結晶層を付したデバイスの実施可能性については,’738特許において必要としないとし,さらに,クレーム19における6点の実施可能性を検討した内5点が実施可能であれば,それで十分だと主張した。それに対して,CAFCは,クレームされた発明の全ての範囲が 明細書によって実施可能でなければならないと明確に示したSitrick判決(Sitrick v. Dreamworks, LLC, 516 F.3d 993, 1000(Fed. Cir. 2008))などを踏まえたうえで,B大学の主張に同意しなかった。
 以上により,CAFCは,クレーム19が特許法112条の実施可能要件を満たしていないとして,被告の申立を拒否した地裁の判決を差し戻した。

(北原 亮)

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