専門委員会成果物

特許法315条(b)のIPR開始に関する時期的要件違反に基づき,IPRを却下するよう差し戻した事例

CAFC判決 2018年8月16日
Click-To-Call Technologies, LP v. Ingenio, Inc., et al.

[経緯]

 Inforocket.Com, Inc.(Info社)は,匿名の電話通信システムに係る特許5,818,836(’836特許)の侵害を理由に,Keen, Inc.(K社,2003年にIngenio, Inc.(I社) に名称変更)を地裁に提訴し,2001年9月,K社に訴状を送達した。本侵害訴訟継続中に,K社がInfo社を買収したことに伴い,当該訴訟は再訴権付きで自発的に取り下げられた。 また,2008年,I社は’836特許クレームに対して査定系再審査を行った。その後,Click-To-Call Technologies, LP(C社)が’836特許を取得し,I社に対して特許権侵害訴訟を提起した。2013年5月,I社及びYellowPages.com LLC(Y社)は’836特許に対して共同で当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請求した。
 特許審判部(PTAB)は,I社及びY社によるIPRは,K社に訴状が送達された日から1年より後に請求されているものの,当該訴訟が再訴権付きで自発的に取り下げられていることを理由にIPRを開始し,’836特許の複数のクレームが無効であると決定した。
 C社はこの判断を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは下記内容を判示し,PTABはIPRを開始する権限がなかったとして,PTABの最終決定を破棄し,IPRを却下するよう差し戻した。
 CAFCは,特許法315条(b)は「IPR請願書が,請願人又は利害関係人に『特許侵害に係る訴状が送達された日』から1年より後に提出された場合,IPRは開始されない。」 ことを明確に規定しており,「再訴権の有無に関わらず,民事訴訟が後に取り下げられた場合の例外」を含んでいないと判断した。
 また,CAFCは,査定系再審査は再発行とは異なり,元の特許を放棄して新たな特許を発行するものではないため,’836特許は,特許法315条(b)を考慮する上で「新たな特許(IPR請求日から1年より前に訴状が送達されていない特許)」には該当しないと判断した。
 加えて,CAFCは,特許法315条(b)は「請願人」ごとではなく,「請願書」ごとに適用されるとの解釈に基づき,IPRの請願人が複数存在したとしても,IPRは単一の請願人によりなされたものと取り扱われるため,本時期的要件は共同請願人であるY社にも適用されると判断した。

(臼井 伸也)

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