専門委員会成果物

IPRにおいて,PTABは申請人からのReplyに関する議論を考慮しなければならないと判断した事例

CAFC判決 2018年8月27日
Ericsson Inc., et al. v. Intellectual Ventures I LLC

[経緯]

 Ericsson Inc.ら(E社)は,Intellectual Ventures I LLC(I社)が保有するワイヤレス通信システムの信頼性を向上させる技術に関する特許5,602,831(’831特許) (2015年3月31日に満了)に対して,2015年6月10日に当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請願した。E社は,複数の文献に基づき,’831特許のクレームは 自明であり,特許性を有しないと主張した。なおE社は,Broadest Reasonable Interpretation(BRI)基準を用いて,’831特許のクレームにある各用語を解釈した。続いて, PTABは,BRI基準に基づき,’831特許の一部のクレームは複数の文献に基づいて自明であると判断し,IPRの審理開始を決定した。IPRの審理開始後,IPRの申請前に特許権が 満了していることから,クレームはPhillips基準で解釈されるべきであるとI社は主張し,E社はこれについて争わず,その結果BRI基準に代えてPhillips基準でクレームを 解釈することとなったため,クレームにある各用語をIPR請願時から変更して解釈することとなった。E社は,自身の応答書面に於いて,Phillips基準での解釈であっても 複数の文献に基づき,’831特許のクレームは自明であることを主張した。しかしながらPTABは,’831特許が複数の文献に基づいて自明であることをE社は証明できて いないと結論し,また,E社の主張は応答書面で初めて挙げられた主張であって申請時の内容を超えたものであると判断して,ReplyにおけるE社の主張を採用せず, ’831特許が特許性を有するもの,と決定した。E社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の判断を行い,PTABの決定を無効として差し戻した。
 PTABは,E社が応答書面に於いて初めて挙げた主張を却下することができる,とCAFCは示した。しかしながら,E社の主張は,Phillips基準の採用により, クレーム中の用語の解釈が変更されても請請時に挙げた複数の文献に基づいて’831特許は自明であるというものであるから,前述の応答書面で初めて挙げ られた主張ではなく,IPR請請時の議論を展開しただけである,とCAFCは認定した。この認定の下,CAFCは,PTABの判断は厳格すぎるものであり,応答書面 で初めて挙げられた主張であるというPTABの判断には合意できず,PTABがE社の応答書面にある主張を考慮しないのは誤りである,と示した。またPTABは ,IPRが開始された後にクレーム中の用語の解釈を変更したという特別なケースであることから,E社には反論の機会が与えられるべきである,とCAFCは示した。

(山名 健司)

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