専門委員会成果物

クレームの文言が通常の意味とは異なる意味であることが厳格な基準で示されていないとして地裁判決を破棄,差し戻した事例

CAFC判決 2018年9月4日
Intellectual Ventures I LLC v. T-Mobile USA, Inc.

[経緯]

 Intellectual Ventures I LLC(I社)は,ソフトウェアアプリケーションからの情報をパケット交換ネットワークに送信するための帯域源をその アプリケーションが求める通信品質に応じて割り当てる「アプリケーション認識割当器」に関する特許6,640,248(’248特許)を保有しており,T-Mobile USA, Inc.ら(T社)が販売する製品が’248特許を侵害するとして特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 両社は,’248特許のクレームにある「アプリケーション認識割当器」の解釈について争った。I社は,単にアプリケーションのタイプに応じて帯域源を 割り当てる割当器と解釈するものと主張し,一方,T社はデータアプリケーションのタイプを認識するだけではなく,アプリケーション層7から得られた 情報を使う帯域源を割り当てる割当器と解釈するものと主張した。地裁は,’248特許の審査経過において,I社が本件発明と先行文献をアプリケーション 層7の情報を認識している点に基づいて区別した点を根拠としてT社の主張を採用した。そして地裁はT社の非侵害の略式判決を求める申立てを認め, 非侵害の略式判決を下した。I社はこれを不服とし,略式判決の基礎となった「アプリケーション認識割当器」の解釈を争うべく,CAFCに控訴した      

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁が「アプリケーション認識割当器」の解釈を誤ったとして,判決を棄却し,事件を地裁に差し戻した。
 CAFCは,「アプリケーション認識割当器」との文言は平易であり,割当器がどのようにアプリケーションを認識するかを特定していないと指摘した。また, CAFCは,クレームの文言は,当業者が理解する通常の意味であることを特許権者が明確に否認しない限り通常の意味で理解され,特許権者が通常の意味を否認 しているか否かは厳格な基準で判断されるとの判断基準を示した。そして,T社が引用した審査経過はこの厳格な基準を満たしておらず,また,明細書中の 記載やサブクレームの記載はI社の主張をサポートするとして,「アプリケーション認識割当器」は単にアプリケーションのタイプに応じて帯域源を割り 当てる割当器であると解釈されると結論した。

(柳澤 健一)

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