専門委員会成果物

引用文献に明確に記載されていなくとも,引用文献に暗に記載されていると当業者が認識しうるのであれば,非自明性判断において考慮してよいとした事例

CAFC判決 2018年9月10日
IXI IP, LLC v. Samsung Electronics Co., Ltd., et al.

[経緯]

 Samsung Electronics Co., Ltd.ら(S社)は,IXI IP, LLC(I社)が保有するワイヤレスネットワーク技術に関する特許US7,039,033(’033特許)に対して, ’033特許の一部のクレーム(クレーム1等)を対象とする当事者系レビュー(Inter partes review(IPR))を請願した。
 PTABは,引用された特許文献WO 01/76154(主引例)に基づき,審理対象とされた全てのクレームは自明であるとして,特許性を有しないとする決定(無効決定)を下した。
 I社は,このPTABの決定を不服として,CAFCに控訴した。   

[CAFCの判断]

 CAFCは,IPRにおける審理対象とされた複数のクレームの内,クレーム1に関する主張は,他のクレームにも適用できるとして,裁判では,クレーム1の 特許性を審理した。CAFCは,そもそも,主引例は,アドホックネットワークに関する特許である。ここで,アドホックネットワークはJINI技術を用いており, このJINI技術は,JINI Lookup Serviceから種々のサービスをダウンロード等するためのアプリ機能を提供するもの,と認定した。続いて,本事件の主要な争点は, 主引例に,「JINI Lookup Serviceが,携帯電話上に設けられている」ことが記載されているか否か,というものであった。IPRの審理経過において,この点については, 前述の記載が主引例に明確には開示されていない旨を両当事者は認めており,かつPTABも同様の認定を行った。続いて,PTABは,S社の専門家証言等を参考にして, この技術分野における当業者であれば,「JINI Lookup Serviceが,携帯電話上に設けられている」と記載されていると,主引例を読むことができるであろうと認定した。  CAFCは,S社の専門家証言等に基づき,当業者が主引例を「JINI Lookup Serviceが,携帯電話上に設けられている」と記載されているものと読むことができるもの, とするPTABの認定を支持した。
 CAFCは,’033特許のクレーム1の構成要件の1つが主引例に開示されていることに基づき自明であるとして,IPRにおいて審理対象とされた審理対象とされた全ての クレームは特許性を有しないとするPTABの無効決定を支持した。

(小林 祐樹)

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