専門委員会成果物

ある機能を実行可能な装置を開示する先行文献に基づいて,当該機能を実行する旨の装置クレームは自明であると判断された一方,当該機能を実行する旨の方法クレームは自明でないと判断された事例

CAFC判決 2018年9月13日
ParkerVision, Inc. v. Qualcomm Inc., et al.

[経緯]

 Qualcomm, Inc.(Q社)らは,ParkerVision, Inc.(P社)が保有する周波数変換装置及び方法に関する特許6,091,940(’940特許)に対して,当事者系レビュー (Inter Partes Review(IPR))を請願した。’940特許の装置クレーム及び方法クレームは,パルス信号を入力として,複数の高調波を含む周期的な信号(以下, 「信号」と略記する)を生成する旨の構成要件を含むものである。
 P社は,ある条件において「信号」を生成することが可能な装置を開示した先行文献(Nozawa)等に基づき,’940特許の装置クレーム及び方法クレームは自明で あり特許性を有しないと主張した。
 特許審判部(PTAB)は,Nozawaが開示する装置が「信号」を生成することが可能である点を認定し,装置クレームは自明であり特許性を有しないと決定した。 一方で,Nozawaが開示する装置を動作させる際に,「信号」を生成するような条件を当業者が選択し得る理由について,Q社が証拠を示さず,主張もしなかったとして, 方法クレームは自明でなく特許性を有すると決定した。
 P社はこの決定を不服としてCAFCに控訴し,Q社もこの決定を不服としてCAFCに控訴した(クロスアピールの状況)。     

[CAFCの判断]

 CAFCは,’940特許の装置クレームについて,先行文献が,たとえ全ての操作のモードにおいてクレームに適合していなくても,クレームに適合するように操作することが 合理的に可能な装置を開示していれば,その先行文献は,装置クレームが自明であることの根拠となり得る,と指摘した。その上で,Nozawaが開示する装置は発振信号を入力として 「信号」を生成するように合理的に動作させることができることを認定し,装置クレームは自明であり特許性を有しないとしたPTABの決定を支持した。
 一方で,CAFCは,装置クレームが自明であることを証明するためには,当該クレームに記載の機能を実行可能とする装置を開示する先行文献を特定するだけで足りるが, 方法クレームについては,更なる証拠や主張が必要,具体的には,当業者が「信号」を生成するようにNozawaが開示する装置を動作させる動機を示す証拠や主張が必要であると 指摘した。その上で,それにもかかわらず,Q社はかかる証拠を示さず,かかる主張もしなかったとして,方法クレームは自明でなく特許性を有するとしたPTABの決定を支持した。

(杉野 真也)

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