専門委員会成果物

地裁や特許の審査段階で行われている特許の自明性に関する立証責任転嫁のフレームワークはIPRの手続でも適用されると判断した事例

CAFC判決 2018年9月17日
E.I. DuPont de Nemours & Company, et al. v. Synvina C.V.

[経緯]

 E.I. DuPont de Nemours & Company(D社)らは,Synvina C.V.(S社)が保有するバイオ由来材料である2,5-フランカルボン酸(FDCA)の製造方法に関する 特許8,865,921(’921特許)に対し,自明性に関する特許無効を主張して,当事者系レビュー(IPR)を請願した。’921特許のクレームは,ヒドロキシメチルフル フラールを酸化してFDCAを製造する方法に関し,酸化反応の際の触媒,温度,酸素分圧,および溶媒,すなわち反応条件を特定するものである。
 特許審判部(PTAB)は,先行文献が’921特許のクレームの範囲に重なる反応条件を開示することを認めた。ところが,PTABは,その反応条件が結果に影響する変数 (result-effective variables)であること,または,その条件が当業者による試行の範囲内であることを請願人:D社が立証していないとして,’921特許の非自 明性を認める判断をし,’921特許を有効とする決定を下した。すなわち審判部は,D社が主張する特許権者への「立証責任の転嫁」を認めなかった。D社はこの 判断を不服として,CAFCに控訴した。      

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁が立証責任の転換を認めない根拠として挙げたCAFCの過去の判決を検討し,それらは本件のように先行文献の開示とクレームの範囲が重なる案件に 適用されるべきでないとして,地裁の判断に誤りがあるとした。CAFCは,先行文献の開示とクレームの範囲が重なる場合には,立証責任は,IPRにおいても,特許 での審査段階や地裁での運用と同様に,特許権者が負うべきであるとして,PTABの判断に誤りが有るとして,PTABの決定を差し戻した。
 また,CAFCは,クレームのすべての要件が,先行文献に開示されている場合,最適条件や実施可能な条件を通常の実験で見出すことには特許性が認められないこと, そのような場合に,特許性について,特許権者は以下の(W)から(Z)に示す方法で自明の推定に反証することができると述べた。(W)プロセスパラメータの 改変が新規で予期しない結果をもたらすこと,(X)先行文献がクレームの範囲を否定すること,(Y)パラメータが結果に影響するものとして認識されていなかったこと, (Z)先行文献での広い範囲の開示は,通常の最適化の行為を誘引しないこと。

(井上 幸子)

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