専門委員会成果物

クレームの文言を一般的かつ通常の意味に解釈した事例

CAFC判決 2018年9月28日
Wisconsin Alumni Research Foundation v. Apple Inc.

[経緯]

 Wisconsin Alumni Research Foundation(W社)は,Apple Inc.(A社)に対して,特許5,782,752(’752特許)を侵害したとして特許侵害訴訟を提起した。 ’752特許は,プロセッサーの効率を高めるため,前の命令が終わる前に,プログラム上の順序を守らず,予測で命令実行する並列処理コンピュータ向けのテーブルベースの データ推測回路に関する特許である。それに対して,A社は非侵害と無効の確認判決を求める反訴を提起し,両社はトライアル前にサマリージャッジメントの申立てを行った。
 地裁は,W社を支持し,’752特許が有効であるとのサマリージャッジメントの判決を下した。その後,トライアルに進み,A社製品は’752特許を侵害し,さらに有効であると 陪審員は判断した。トライアル後,A社は陪審評決の見直しを求める申立てを行ったが地裁はそれを否認したため,サマリージャッジメントの判決も含めてCAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の陪審評決見直しの申立ての否認の判決を覆した。陪審評決に関して,クレームを一般的かつ通常の意味や,W社に有利になる証拠から合理的な推定を用いて 解釈しても,陪審員が侵害と判断するには不十分であるからである。具体的には,クレームの「特定の命令に関連付けられた」とは,「一つの命令に関連付けられた」と CAFCは解釈した。この解釈により,複数の命令群に関連付けられた被疑侵害品はクレームの範囲外であると判断した。
 一方,CAFCは,サマリージャッジメントの’752特許は有効であるとの判決を支持した。具体的には,クレームされている「予測」という文言には動的な予測と静的な 予測を含むとA社は主張したが,’752特許の明細書全体を考慮した上で,一般的かつ通常の意味としては,動的な予測に限定されるとCAFCは解釈した。従って,先行文献には 「予測」という文言が記載されていたとしても,クレームされている動的な予測は開示されてないため,’752特許は有効であるとCAFCは判断した。

(桑野 陽一郎)

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