専門委員会成果物

DNAのプライマーは特許法101条の特許適格性がないと判断した事例

CAFC判決 2018年10月9日
Roche Molecular Systems, Inc. v. Cepheid

[経緯]

 Roche Molecular Systems, Inc.(R社)は結核の原因となる結核菌(MTB)の検出方法に関する特許5,643,723(’723特許)を保有していた。’ 723特許の診断試験は,MTB中のrpoB遺伝子における11の位置特異的シグネチャーヌクレオチドの少なくとも1つにハイブリダイズできる短い一本鎖ヌクレオチド核酸配列 (プライマー)を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により,患者の生体試料から抽出したDNAを増幅するものであり,リファンピン耐性のあるMTBを迅速に検出することができる。
 R社は,Cepheid(C社)のMTB検出に関する製品に対して特許侵害を提起した。地裁は特許法101条の下で特許適格性がないため無効であると判断した。なぜならば, ’723特許のプライマーは,自然界に見出されるものと同一の遺伝子配列を有するものであり,特許適格性がない主題に向けられたものと区別できないからである。
 R社はこれを不服としてCAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,Alice/Mayo最高裁判決で示された2ステップに基づいて以下のように検討した結果,’723特許のプライマーは特許適格性がないと判断した。
 第1のステップについて,R社は,’723特許のプライマーは天然のDNAとは異なる人工のプライマーに向けられているため特許適格性があると主張した。しかし, CAFCは,’723特許のプライマーは,単離されたDNAと区別されないとして,これを否定した。具体的には,プライマーは必然的に結合しようとするDNA鎖の正反対の ヌクレオチド配列と同一の配列を含み,天然に見出されるDNA鎖の末端と構造的に同一であると判断した。
 第2のステップについて,R社は,’723特許のプライマーは11の位置特異的シグネチャーヌクレオチドのうちの1つにハイブリダイズすることができるため, 特許可能な主題に変換されると主張した。しかし,CAFCは,プライマーがハイブリダイズするように設計されている11の位置特異的シグネチャーヌクレオチドは 天然に存在するものであり,’723特許のプライマーは既存の位置特異的シグネチャーヌクレオチドを同定したに過ぎないと認定した。

(杉山 大輔)

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