専門委員会成果物

当業者の知識,動機及び期待を考慮するうえで優先日より後に公開された証拠を採用した事例

CAFC判決 2018年10月12日
Yeda Research and Development Co., Ltd. v. Mylan Pharmaceuticals Inc., et al.

[経緯]

 [経緯]  Yeda Research and Development Co., Ltd.(Y社)は,薬剤の成分及び治療法に関する3件の特許を保有していた。これらの特許は薬剤の有効成分を週3回投与することを 限定するものであった。なお,この特許に先立って,米国食品医薬品局は,1996年に有効成分を日に1回投与する当該薬剤の他の剤形を承認していた。また,有効成分の毎日の 投与は副作用を引き起こす可能性があることが当時から知られていた。
 Mylan Pharmaceuticals Inc.は,この3件の特許に対して,新規性及び非自明性の欠如の観点から当事者系レビューを請願した。
 特許審判部(PTAB)は,請願人の提出した証拠には,週3回有効成分を投与することを除き,3件の特許の限定事項はすべて開示されていると判断した。また, 請願人が提出したKhan氏による論文には,有効成分の投与を一日おきにした場合であっても,毎日投与した場合と同等の有効性を発揮したとするデータが開示されていた。
 なお,Khan氏の論文に関する研究は,Y社の特許の最先の優先日より2年早く開始されているものの,論文の公開自体は優先日よりも後である。PTABは,この論文は法定の 先行技術の資格を有しないものの,当時の当業者が有効成分の投与を毎日よりも低頻度とすることへの動機と,成功への合理的な期待の証拠となると判断して,Y社の特許 3件は自明により無効と決定した。Y社は,Khan氏の論文に依拠したPTABの決定について控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,IPR2014-00684を引用し,PTABは,法定の先行技術でない証拠を単独で,または他の先行技術と組み合わせて使用することは出来ないが,当業者の技術レベルを示すなど, 適切な補助的役割としては依拠できるとした。
 CAFCは,本事件への当てはめとして,PTABがKhan氏の論文に法定の先行技術であるかのように依拠して,当業者が成功への合理的な期待を有していたと判断した点は, 誤りとした。一方で,Khan氏の論文は,当時の当業者が有効成分の投与頻度をより少なくする動機を有していた事実を証明するうえで適切で補助的な役割を果たしていると 認めた。結果,CAFCは,PTABの判断を支持した。

(金杉 勇一)

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