専門委員会成果物

譲渡人禁反言の法理が当事者系レビューに適用されないと判断された事例

CAFC判決 2018年11月9日
Arista Networks, Inc. v. Cisco Systems, Inc.

[経緯]

 Arista Networks, Inc.(A社)は,Cisco Systems, Inc.(C社)が保有する通信装置に関する特許7,340,597(’597特許)について当事者系レビュー(Inter partes review(IPR)) を請願した。’597特許は,C社の従業員であった発明者により出願された後にC社に譲渡されたものであった。当該発明者は,その後C社を退職してA社を設立した。
 本IPRにおいてC社は,発明に関する権利を譲渡した者はその権利について無効主張出来ない,という譲渡人禁反言の法理がA社に適用されるため,本IPRは却下されるべきと主張した。 特許審判部(PTAB)は,IPRには譲渡人禁反言の法理は適用されない旨を示しつつ,’597特許の一部クレームが有効であり,残りの一部クレームが無効であると最終決定をした。
 A社は,PTABのクレーム中の文言解釈は誤りであり,有効と判断された一部クレームは無効であるとしてCAFCに控訴した。また,C社は一部クレームが無効とされたこと及び,譲渡人 禁反言の法理が適用されなかったことを不服として,CAFCに控訴した。      

[CAFCの判断]

 CAFCは,A社の主張を認め,PTABの文言解釈は誤りであるとして審理をPTABに差し戻すとともに,以下のように,譲渡人禁反言の法理がIPRに適用されないと判示した。
 A社は,特許法311条(a)の「特許権者でないものは,その特許についてIPRを請願できる」の記載について,IPRに譲渡人禁反言の法理が適用されないことは明らかだと主張していた。 CAFCはA社の主張を支持し,当該特許法311条(a)の記載は,特許権者でない譲渡人はその特許についてIPRを請願できることを示すものである,と判断した。また,アメリカ国際貿易 委員会(ITC)への訴えでは禁反言の法理を主張出来る旨が条文で定められている一方,IPRについてはそのような規程はないということを証拠として,IPRに譲渡人禁反言の法理を適用 しないことが議会の意図である,とCAFCは判断した。
 さらにC社は,IPRに譲渡人禁反言の法理を適用しないとすると,当該法理が適用されるITCや地裁の審理と矛盾すると主張していた。これについてもCAFCは,矛盾ではなく議会が 意図的に定めたものであるとして,C社の主張を否定した。

(長田 達朗)

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